乃木坂46のスタッフ兼ギタリスト













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11 丑
???曲目 〜元旦〜
 メンバー達が乃木坂事務所に戻ってきたのは、年を越してから数時間後だった。その時にはもう若い衆もクタクタに疲れており、終電もない為に担当マネージャー達が手分けしてメンバー達を自宅に送り届ける。晃汰はと言うと、ブラックコーヒーを過剰に摂取していたから、眠気など全くなかった。転落事故のトラウマであれ以降、彼はエナジードリンクの類を一切口にできなくなってしまったのだ。

 そんなギタリストが運転する車の助手席には、荷物ではなく秋元キャプテンの姿があった。流石に彼女も疲れた顔をしており、ホールド性の高いシートにもたれては、時折り寝息を立てる。だがその車は真っ直ぐ秋元の自宅へと向かう事はなく、晃汰が何度も通ってナビ案内なしで行ける数少ないメンバーのマンションへと向かった。

 豪華なタワーマンションの地下駐車場に真っ赤なマシンが飛び込むと、待っていたかのように一人の女性が近づく。

「あけおめ、ことよろ」

 運転席から降りた晃汰は、ブランド物のボストンバッグを抱えた白石に、新年の挨拶をする。

「お年玉は?」

 開けられたトランクにバッグを押し込む白石は、前日にテレビ画面に映っていた時と同じメイクの晃汰の顔を見た。

「普通逆だよね?」

 馬鹿馬鹿しくも懐かしいやり取りに、晃汰は口元を緩める。

 白石は助手席側のドアを開けると、すっかり夢を見ている秋元を優しく揺り起こす。寝起きのボケた表情の秋元は同性の白石でさえをも照れさせる程に可憐だったが、今は見惚れている場合でないことは彼女もよくわかっている。すっかり慣れた手つきで助手席を引き倒すと、白石は狭い後部座席に転がり込んだ。彼女の姿勢が安定するのを確認すると今度は晃汰が席を正常な位置に戻し、秋元を座り直させてコックピットに戻った。

「かっこよかったよ、晃汰」

 後部座席から聞こえてくる白石の声に、晃汰は素気のない返事で返すが、実はとても嬉しかった。カメラマンを警戒して窓から見えない位置にまで身体を倒す白石を、ルームミラーでさえも見ることは出来ないが、それでも彼女がどんな顔をして自分を褒めてくれているのか、晃汰には分かるようだった。

「まいやん、私は?」

 束の間のうたた寝ですっかり元気になった秋元が、やはりカメラを警戒して前を向いたまま白石に尋ねる。

「え?真夏いた?」

 変わらねえな。晃汰は姉妹のような二人の会話を聞きながら、寮へとアクセルを開けた。

 元旦の朝八時、"三人"は一つのスマホのアラームで仲良く起きると、洗顔・歯磨き・身支度を効率よく行ってエプロンを着けた。キッチンとその周りには夥しい程の食材が所狭しと置かれており、三人はそれらを睨みつけるかのように眺めた。

「やるよ」

 腕まくりをする白石の一言に、両サイドの秋元と晃汰も腕まくりをして頷いた。

「かかれぇ!」

 采配を振るうが如く、白石の右腕が勢いよく振り下ろされた。



『正月パーティーをやろう』

 全ての始まりは、晃汰のこの一言だった。

 クリスマスも彼女と過ごせない寂しさから、晃汰は自然とメンバー達に精神的な部分を求めてしまっていた。森保の後ろ姿をメンバー達に重ねては寂しさを紛らわし、考えないようにしていた。それでもモヤモヤは晴れることはなく、ちょっとしたタイミングで晃汰はポロッとこぼした。

 当初は寮に住んでいる三、四期生を招待しようと考えていたのだが、どこからかその話が漏れて結局は全期生が集まることになった。どうせやるなら大勢の方がいい、晃汰は日に日に増えていくスケジュールの参加登録者数を眺め、期待に胸を膨らませた。

 それから程なくし、晃汰に直接白石からメッセージが入った。

「私も行きたいな。手料理作ってあげるから」

 予期せぬ役者の登場に、晃汰は声に出さずに笑うと彼女に二つ返事で快諾した。どうせやるなら大勢の方がいい、その頃の晃汰はそれが口癖になっていた。

「ななも行きたい」

「壮亮を連れて行きたい」

「テレ朝の生放送を終えたら行きたい」

 現役メンバーのみならず、OG達からも晃汰宛にメッセージが届く。果たして自分の部屋に入り切るのだろうか…晃汰はそこだけが心配だったが、ここでもどうせやるなら大勢の方がいいで片付けてしまった。



「麻衣、あとどんくらいで終わりそう?」

 包丁をまな板に連続で叩き付ける晃汰は、お雑煮の鍋を睨む白石の進捗が気になって声をかけた。パーティー開始まであと二時間、メンバー達が集まってくるのが三十分前と仮定すれば、あと一時間半で料理と部屋の準備を終えなければならない。

「お雑煮はあと少しで完成。終わったら揚げ物始めるよ」

 エプロン姿の白石は、顔だけを晃汰に向けて答えた。髪を後ろで一つに纏めているあたり、彼女の本気度が伺える。

「了解。真夏さんも大丈夫そうだな」

 自身の右の奥にいる白石とアイコンタクトを取ると、シンクから見えるリビングに晃汰は眼を移す。卓上IHを使ってケーキを焼く係の秋元は、並べた幾つものボウルを忙しなく行ったり来たりしている。

「私も、スポンジ焼き上がったらクリーム塗って仕上げるだけだよ!」

 独り言のような晃汰の言葉を聞き、秋元もシンクに立つ晃汰と眼を合わせた。このペースなら問題あるまい、晃汰は何度か頷いて再びマグロのたたきを作る。

 開始三十分前、この日の為に実家から取り寄せた大きなテーブルにのせられた料理を眺め、晃汰は大きなため息を吐いた。

「こんな量作ったの、初めてだよ」

 同じように料理を見下ろす白石は、捲っていた袖を直す。

「私も、とうぶんはもういいかな…」

 深夜の仕事が続いていて疲労困憊だった秋元も、尋常ではない量の食料を前に眉間をマッサージする。

 元旦の献立は、お節もほどほどに若い連中が喜びそうなモノがラインアップされた。お雑煮は白石が、大きなケーキは秋元が担当し、晃汰が捌いた刺身達が輝いている。残りのメニューも凄い事になっており、ちょっとしたホテルのブッフェなら簡単に勝ててしまう程の品数を揃えていた。

 やがてとびっきりのお洒落をしたメンバー達が、いつものように施錠されていない玄関を通り過ぎて続々と三人が待つ晃汰の部屋にやってきた。前もって晃汰は『手ぶらで来い』と通達していたのだが、全員が何かしらの手土産を持参して来た。なんだか申し訳ない晃汰だったが、それでも有り難く受け取って床に座らせていく。この日の為に座布団も相当数を実家から運び込んでいた。

 "とりあえず"は、現役メンバーとコック役の白石が仲良く座ってから会は始まった。晃汰を含む乃木坂の連中は三ヶ日までOFFな為、年に数回しかない連休を事もあろうに仕事仲間と過ごす。

「よく考えたら、自殺行為だったな」

 開始早々、凄まじい勢いで無くなっていく料理を見て、晃汰は秋元と白石と苦笑いを浮かべてパーティーを企画した事を後悔した。

■筆者メッセージ
いつか混ざりたいものです
Zodiac ( 2021/01/15(金) 06:43 )