AKBの執事兼スタッフ 2 Chapters











小説トップ
第8章 48or46
76 Storys 〜契約満了〜
「続いては、乃木坂46のみなさんです」

 サングラスをかけた超有名司会者が、お次のゲストである乃木坂46を紹介する。拍手とともに画面にメンバー達が写り、みな一斉に頭を下げるのである。

「今回の曲は、どんな曲なの?」

 センターを務める齋藤飛鳥に、カメラの焦点が合わせられる。

「今回のこの『Sing Out!』と言う曲は・・・」

 決まりきった台詞を並べる齋藤だったが、いつしかそんな機械的な言動の中にも一人の男の後ろ姿が、やけに鮮明に彼女の脳裏に蘇るのであった。それは他のメンバーでも同じ事で、その曲を歌うたびに、踊るたびに作詞作曲者の残像が彼女達を翻弄するのだった。

「何処に行ったんだよ、あのバカ」

 生放送が終わって控え室に引き上げた齋藤は、部屋に入ると真っ先にそう嘆いた。

「しょうがないよ、晃汰もサラリーマンなんだから」

 齋藤の言葉を聞いていた秋元は、彼女の肩を抱きながら言い聞かせる。

「全国ツアーのギター、誰になるんだろうね」

 白石も浮かない顔で肩を落とし、釣られるように周囲の連中もため息をついた。例の一件以来、元気印の高山でさえも手に負えないほど、乃木坂46の雰囲気は最悪のものだった。それはグループ外での個人仕事にも影響を及ぼすほどだった。

 このままでは、乃木坂が終わってしまう。関係者の誰しもが最悪の事態を想定してしまっていた。たったひとりの男の存在がメンバーを、そして乃木坂を支えていたのだと関係者の一人残らずが感じさせられてしまった。

 そんな折、真夏の全国ツアーの会議が幾度となく重ねられた。会場や日程は既に決まっているものの、グッズアイデアや舞台構成、ついては出演者までも議論を重ねられていた。ただ、抜けたギタリストに関わる一切の話し合いは、徳長と今野の二人だけのものとなった。その無骨なまでの対応に、主要スタッフは「もしかして・・・」といった淡い期待を抱かずにはいられなかった。

「アイツがいつ戻ってこれるかわからない。いや、戻ってこれないかもしれない・・・けど、最悪と最高を準備しておくんだ」

 徳長と二人きりで話す時の、今野の口癖だった。

 乃木坂の闇陣営が暗躍している頃、渦中のギタリストは関係箇所との交渉に奔走していた。横山に辞表を叩きつけた翌日から、晃汰はレコード会社を中心とした関連会社に頭を下げて回った。それは完全移籍を前提とした報告と同時に、まだ辞表を受理していないAKSを牽制する行為だった。

 そんな晃汰とAKSとの冷戦も、終わりを告げた。ギタリストが辞表を提出してからちょうど一週間後、AKSは正式に彼の辞表を受理すると、本人に伝えた。AKS側は晃汰の辞表の受理と引き換えに、ひとつの条件を提示した。それはAKB48に最後の曲を提供することだった。その条件を呑んで、晃汰とAKSは両者合意に至った。その報せを受け、晃汰は直ぐに徳長と連絡をとった。そして今後の予定を細く確認し、二人は再会を誓って連絡を絶った。

 数日後、晃汰にとっては初めてとなる、歌唱メンバーと一度も顔を合わせずに制作された楽曲が完成した。今まで使っていたギターや機材を一切使用する事なく、普段の彼のサウンドや曲調とは全く異なるその楽曲に、メンバーやファンも大いに驚いた。しっかりと晃汰の名前がジャケットに刻まれたCDが発売された一週間後、AKB48の公式HP上に晃汰の契約満了の記事が載った。様々なニュースで話題となり、たちまち晃汰のSNSはパンクをした。そんな事は百も承知な晃汰は、全てのSNSから一時的にログアウトして難を逃れた。そしてその速報を、乃木坂46の本部事務所の会議室で涼しげに眺めるのであった。

Zodiac ( 2019/07/05(金) 21:40 )