AKBの執事兼スタッフ 2 Chapters











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第8章 48or46
73 Storys 〜おあずけ〜
「大変だな、君も」

 森保一家との楽しい食事を終え、晃汰はまどかの父と二人で晩酌をしている。連日報道されている娘のボーイフレンドの異動に、森パパは彼の労を労う。

「そんなことない・・・事もないですね。けど、こればっかりはサラリーマンなので避けては通れないですね」

 少なくなった森パパのお猪口に、晃汰は日本酒を注ぎながら答える。それを美味しそうに飲み干し、森パパはお猪口を置いた。そして森パパは同じように、晃汰のお猪口に酒を注いだ。

「晃汰的に、どっちが良かったんだ?AKBと乃木坂と」

 刺身とともに置かれたワサビを舐め、森パパは晃汰に問うた。酒を舐め、晃汰は天を仰いでから答えた。

「ギタリストとしてなら乃木坂ですかね。ただ、まどかの彼氏としては断然AKBですね」

 口元を緩めながら、晃汰は答えた。森パパはギタリストの肩を小突き、また美味しそうに酒を飲み干した。

「結婚するのか?」

 お猪口をテーブルに置く音の直後、晃汰の耳に入ったのは森パパの少し低くなった声だった。

「そのつもりです。ただ、まどかが卒業して少し経ってからですね。今もこういう関係は御法度ですし・・・」

 ここは少しの笑みも見せず、晃汰は真剣な表情で隣の義父に答えた。森パパは何も答え無かったが、徳利を持って催促した。晃汰は慌てて残っていた日本酒を飲み干し、お猪口を差し出した。森パパは波々と注ぎ、晃汰と同じタイミングで酒を飲み干した。

「おまたせ」

 そこへ、シャワーを浴び終えてバスローブ姿のまどかが現れた。晃汰は彼女の方に振り向かずに酒を飲み干して立ち上がった。

「失礼します、パパさん」

 晃汰は彼女の父親に向かって、深々と頭を下げた。

「楽しかったぞ。いい夢をな」

 森パパは上機嫌で晃汰の頭をこれでもかと雑に撫でて、二人を送り出した。晃汰とまどかが彼女の部屋に行く途中、まどかの弟である浩樹の部屋に晃汰は顔を出した。

「大学生活楽しんでるか?」

 晃汰は弟分の浩樹を見た。何やらカー雑誌を読んでいた浩樹は、紙面から顔を上げて晃汰を見た。

「それより、86運転させてよ」

 ニヤッと笑いながら、浩樹は答えた。

「今度な」

 そう言って晃汰は扉を閉めて、先に部屋に行っていたまどかを追った。

 部屋に晃汰が入ると、彼女は鏡に向かって入念にスキンケアを行なっていた。その後ろ姿に只ならぬ魅力を感じた晃汰は、思わずまどかを後ろから抱きしめた。まどかは一瞬だけ驚いたように身体をビクつかせたが、すぐに彼の手に自身の手を重ねた。

「話しておきたいことがある」

 まどかを背中から抱きしめたまま、晃汰は彼女の耳元で呟いた。まどかが小さく頷く。

「AKSを退社しようと思う」

 面喰らうだろうと晃汰は踏んでいたが、意外や意外でまどかの反応は彼の想像の斜め上をいった。

「乃木坂に戻りたいんでしょ?私もいつまでもここ(AKS)に、晃汰がいる必要はないと思う」

 驚いたのは晃汰の方で、まどかの首に絡める腕の力を無意識に強くしていた。

「本部の事とか、NGTの事とかわたしには分からない。だけど、晃汰を乃木坂からAKBに戻すタイミングが悪い意味で絶妙で・・・私の彼氏はモノとしか扱われてないんだなって・・・」

 並べる言葉は哀しみに満ちているのに、まどかの声は芯が通っていて力強い。それこそ、晃汰が抱きしめる腕の力なんかよりも・・・

「私のことは心配しないで。まだまだ卒業は考えてないし、博多で頑張るよ」

 そう言って、まどかは美容液が入った容器の蓋を閉めて立ち上がった。晃汰は腕を解くと、まどかを自分の方に振り向かせた。真っ直ぐに二人は見つめ合い、どちらからともなく唇を重ねた。

「KISSだけ?」

 森保は眉間にシワを寄せた。

「何をお望み?」

 晃汰はいたずらに聞き返す。

「それは、ギタリストさんが一番よくご存知じゃなくって?」

 首を傾げながら、まどかは挑発を続ける。

「・・・ベッド連れてって」

 焦らし対決に負けたのはまどかだった。切望するように悲しげな表情を浮かべ、最愛の彼氏にもたれかかった。晃汰はしっかりと彼女を抱きとめると、お姫様抱っこでベッドにうつった。

「何ヶ月ぶりかな。二十代の男の子には永すぎたよ」

 そう言って、晃汰はまどかにKISSの雨を降らせた。まどかは身をよじらせながら、必死に正常な意識を紡ぎながら部屋の灯りを暗くさせたのであった。

Zodiac ( 2019/06/26(水) 22:20 )