67 Storys 〜ケジメ〜
48グループの役員から辞令を言い渡された翌日、晃汰は徳長と今野に役員と話した事実を包み隠さず話した。
「そっか…辞令ならしょうがないな…」
今野はいよいよか、といった表情を浮かべて天を仰いだ。彼の隣に座る徳長は俯いたままだ。
「なので、この一週間はソロメンバーと一対一で同行させてもらいたいです。最後にどうしても、伝えたくって…それと、メンバーには内緒にしておいてください」
目元を指の先で擦るクセが出始め、晃汰は二人の顔を見比べた。
「わかった、必ず配慮する」
徳長は赤い目で晃汰に誓った。彼は嬉しそうに頷くと、二人に頭を下げて部屋を出て行った。
「急ですね」
徳長が漏らす。
「人事ってそんなもんだよ」
今野は苦笑いを浮かべ、吐き捨てた。
「メンバーには内緒にしてくれか、アイツらしいですね」
後輩のケジメに、徳長は思わず目元を押さえた。その肩を今野が叩いた。
翌日から、晃汰の同行は始まった。 初日の相手は梅澤だった。
「晃汰さんが私の同行って、珍しいですね!」
晃汰の前では乙女全開の梅澤が、晃汰の運転する86の助手席で騒いでいる。
「朝からずっと煩えのな。そんなんじゃ一日持たねぇぞ」
めんどくさがりながらも笑顔の晃汰は、彼女を乗せて撮影スタジオへと向かった。
170cmのスタイルを活かし、梅澤は次々にポーズを入れ替える。時にはCuteに、時にはSexyにポーズをとる梅澤を、晃汰は腕を組んで見守る。
「どうでしたか?今日の私」
次の場所への移動中、梅澤は例によって運転中の晃汰に自身の出来を尋ねる。
「良かったんじゃね?少なくとも俺は可愛いと思うけどね」
晃汰のその言葉以降、梅澤はすっかり静かになってしまった。ギアチェンジの際、晃汰は横目で彼女を見ると、そこには耳まで真っ赤にした梅澤がいた。
その後も雑誌の取材やモデルの撮影をこなし、夕方には梅澤ら3期生が住む借り上げのマンションに向かった。その道中、晃汰は異動の話を梅澤に打ち明けようと考えていた。
「なぁ、梅。俺さ、AKBに戻る事になった」
「え!?」
間髪入れず、梅澤は予想通りのリアクションをする。
「元々は留学生で来てるから、いつか戻らなきゃならない。俺も組織人だから、上の決定は絶対なのよ」
決まって冷静に晃汰は伝えてはいるが、対する梅澤は両手で顔を覆ってしまっている。
「ティッシュは後ろの席にあるぜ」
晃汰は視界を目の前から外さずに、梅澤に忠告をする。そんな彼の言葉も耳に入っていない梅澤の肩は、次第に小刻みに震えていく。
「ほら、着いたぞ」
マンションの下に真っ赤な86が停まり、晃汰は梅澤の肩にてを置く。その瞬間、シートベルトを外した梅澤が晃汰の首にすがりついた。
「嫌です、絶対嫌です!!」
泣き崩れる梅澤を冷静になだめ、晃汰は彼女に言い聞かせる。
「また何処かで会えるよ、こんな仕事してりゃさ。だからもう泣くな」
晃汰の言葉に梅澤は泣き止み、車を降りた。
「くれぐれも他の連中に言うなよ?騒ぎが大きくなるから」
そう言い残し、晃汰は86を発進させた。その後、梅澤が極秘裏に他の3期生に涙ながらに晃汰の事を言ったのは言うまでもなかった。