AKBの執事兼スタッフ 2 Chapters











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第7章 年末
60 Storys 〜再確認〜
 年末の風物詩、レコード大賞。 その大きな賞の獲得を目標に掲げ、年間を通して活動をしているアーティストも少なくはない。 そんなアーティストの中に、乃木坂46も含まれていた。 そして今回、晃汰が作詞から作曲の全てを担った楽曲『インフルエンサー』が大賞候補としてノミネートされた。 前作、例によって晃汰が同様に全てを手掛け、卒業をする橋本奈々未に捧げた曲『サヨナラの意味』に次いでミリオン達成は二作目となり、晃汰は商業的成功によって確固たる自信を得ることとなった。 そして今作は、商業的成功とともに晃汰においても音楽的に満足のいく出来に仕上がり、その事がより一層の自身になったのだ。 

 そんなレコード大賞の当日、会場となる新国立劇場に乗り込む前、乃木坂事務所で最後の確認とミーティングがされている。 もちろん晃汰の顔もメンバー達の中にはあるが、今回は彼が演奏する幕はない。 緊張の色を表情に惜しみなく出すメンバーとは逆に、晃汰はリラックスをした穏やかな表情でミーティングに参加をしている。 以降の流れ、現地入りの方法などをミーティングにて再確認し、続いて最後のダンスの最終確認にうつる。 振付師のSeihiroとメンバー、それに晃汰だけがレッスン場に残り、他の関係者はシャットアウトされた。 そんな密閉された空間の中で、振付師と作曲者の眼前でメンバー達は情熱的な踊りを繰り広げる。 

  「この曲を初めて聴いたとき、音よりも情熱的な景色が浮かんできて・・・ これをダンスでどう表現させようか、たぶん僕の中で一番迷った曲だと思うよ」

 メンバー達のダンスの出来を確認する中、振り付けを担当したSeishiroは隣で壁に身体を委ねる晃汰につぶやく。 晃汰は視線や組んだ腕を崩さずに、彼に答える。

  「自分はダンスをやったことがないので、いつでもギタリストとして曲を作ってしまいます。 ですが今回、ミリオンもありがたいことに連続で獲得させてもらいましたが、それは自分の楽曲云々ではなく、Seishiro先生の振り付けのお陰だと思ってます」

 謙遜ではなく本音。 晃汰が心の底からそう思っていることを察した振付師は、小さく笑いながらギタリストの左肩に手を置く。

  「振付師は、優れた楽曲であればあるほど、振りを入れることに誇りをかんじているんだよ。 それに、音が無いものにダンスはつけられない。 恐らく彼女たちが今夜、大賞を獲ると願っているけど、そうなってもならなくても、この曲は僕の中では一番だよ」

 そう言ってSeishiroは晃汰の肩を小さく揺らし、ちょうど披露する部分を踊り終えたメンバー達に近づいて行った。 今まで振付師が振れていた部分に自身の右手を置いた晃汰は、何故か無性にレコード大賞の女神が乃木坂46に微笑むのではないかと、思えてしょうがなかった。 

 ダンスの確認もSeishiroが太鼓判を押したことにより、予定よりも若干遅れて終了となった。 激励の言葉をかけた振付師はそそくさとレッスン場から退出し、残された晃汰はメンバー達の円陣の中へ取り込まれた。 全員が肩を組み終わるのを見計らい、桜井キャップが口を開く。 そこではあえて締めずに、桜井は話の主導権を晃汰に託した。

  「俺があなた達にしてあげられるのはここまでです。 自分なりに最高の楽曲を作ったつもりですし、Seishiro先生も太鼓判を押してくれました。 有難いことに僕が楽曲に携わらせていただいて、ミリオンも達成しましたし、本当に感謝しかないです。 そんなあなた達の後ろでギターを弾くことができて、本当に光栄に思います。 それから・・・」

 言葉が終わる前に晃汰は突然、円陣から外れてメンバー達に背を向けた。 大きなものを背負ってきた肩は小刻みに揺れ始め、メンバー達は彼がどんな顔をしているのか、察しがついてしまった。 なおも泣き顔をメンバー達には見せぬよう、ギタリストは必死に歯を食いしばって涙をこらえる。 そんな晃汰に、輪から抜け出した生駒が彼の肩を抱く。

  「まだレコ大獲ってないよ・・・ 丸ちゃんが泣いたら、みんな泣いちゃうじゃん・・・」

 情の深い生駒も涙がこぼれるのを必死に押し殺しながら、晃汰を再び円陣へと連れ戻そうとする。 震える呼吸は整ってはいないが、生駒に頷き、晃汰は円陣に戻った。 見渡せば眼を紅くしているメンバーが大半で、晃汰は涙はレコード大賞受賞の時に残しておくようにと、気持ちを切り替えた。

  「お見苦しい場面をお見せしましたが、レコ大は絶対に獲ってきてください。 そして、アイドル界の頂点に君臨するんです。 そしたら、俺も乃木坂専任になれると思うので(笑)」

 晃汰は自分の将来がどうなるかなんて見当もついていなかった。 ましてや、この留学がいつ終わるのかさえも計算ができていない。 だが、このまま乃木坂がレコード大賞を受賞すれば、恐らく自分はAKBに戻るのだと推測をしていた。 そんな事を心のどこかで感じていたから、ポロリと『専任』という言葉が、彼の口から出てしまったのだ。

  「とにかく、今日はレコ大で明日は紅白。 二夜連続で大賞とるぞ!!」

 そう言って、晃汰は思いっきり右足を踏み出し、それに応えるようにメンバー達も右足を踏み出した。 その直後、一斉に拍手が沸き起こり、メンバー達はお互いを鼓舞するかのように握手やハグを交わし、晃汰もそれに交じる。 

 メンバーを乗せたバスが乃木坂事務所を出ていく。 追うようにして、晃汰が乗る紅いスポーツカーが軽快にエンジン音を響かせていく。 会場に向かうまで、晃汰はずっとカーステレオで今夜披露される楽曲をリピートで流しており、彼なりの願懸けをしていた。 

■筆者メッセージ
みなさま、今年もよろしくお願いいたします。 レコ大の興奮が冷めやらないので、こっちを優先して書きます。
Zodiac ( 2018/01/02(火) 20:12 )