AKBの執事兼スタッフ 2 Chapters











小説トップ
第5章 47人目のギタリスト
51 Storys 〜完走〜
 新潟最終日の夜、恒例となった打ち上げが宿泊ホテルの近くにある、ちょっとした店で行われている。 スタッフも同席している為、未成年のメンバー達も含めた全員が顔を揃えている。 ただ、未成年がいるということを考慮し、お酒は全く注文されなかった。 呑みたい者は二次会で・・・というスタンスをみんなが理解しているため、不祥事といったことは起こらなかった。

 豪勢な食事を前に、早くも変なテンションに入ってしまった生田を川後がフォローし、自分の事を『愛未ちゃん先輩』と呼ばせたがる能條に困惑する与田など、普段では見れない光景が晃汰の目の前に広がっている。 

  「じょーさん(能條)が『愛未ちゃん先輩』って呼ばれるなら、俺は『丸ちゃん先輩』ってよばれたいな〜」

 与田と大園からニックネームで呼ばれて照れる能條を見て、晃汰は頬を膨らませる。 そんな彼に与田と大園の両名が照れた表情を浮かべているとき、松村が全力のぶりっ子で『丸ちゃん先輩』と晃汰を呼んだ。
 
  「りんごさん、それ反則です・・・」

 全力で眼を瞑り歯を食いしばった晃汰は、絞り出すように斜め前に座る松村へ応答する。 してやったりといった松村の次に続いて、今度は白石が『丸ちゃん先輩』と呼んだ。 今度こそ致命傷を負ったギタリストは、そのまま後ろに倒れて壁に寄り掛かった。 白石と松村はハイタッチを交わし、倒れたままの晃汰は川村真洋が保護する。

  「はぁ〜もうお腹一杯・・・ 可愛い子に囲まれるとドキドキしちゃうんですよね」
 
 苦笑いを浮かべながら晃汰は頭をかき、必死に平常心を取り戻そうとする。 そうはさせまいと、松村は晃汰の隣に川村と入れ替わる形で移動し、彼にダル絡みをし始める。

  「ね〜丸ちゃん先輩、私にお刺身食べさせて?」

 顔を斜めに倒しながら、松村は晃汰の眼を見て訴える。 思わず叫びそうになる衝動を抑え、晃汰は平生を装う。

  「えっと・・・ これはセクハラの一種ですかねぇ」

  「あ、そういうこと言うんだ・・・」

 自分の一言に悪い笑顔で返す松村を脅威に感じ、晃汰は悔しそうな顔を作りながら松村に自身の箸で刺身を食べさせた。 満面の笑みをする松村は再び所定の位置に戻り、今度はテーブルの向こうの白石が、晃汰に催促をする。 

  「これ本当に、ドッキリとか週刊誌とか入ってないですよね? 嫌ですよ、スキャンダルとか書かれても」

 多少の笑顔で言うものの、やはり晃汰の脳裏にはどうしてもそう言った不安がよぎってしまう。 だが、その答えは周りのメンバーとスタッフの顔を見ればハッキリとしていた。 嬉しそうに肩を落とした晃汰は、再び箸を持って白石の口にに焼き鳥を運んだ。 頬を押さえて咀嚼をする白石の顔がとてつもなく可愛く、ギタリストは思わず眼をそらした。 

  「えぇな〜、まいやんとかまっつんにやって・・・ ななも欲しいな〜」

 少し離れた西野が、イチャイチャしていた連中に聞こえるように呟く。 

  「あ〜七瀬さんすいません! どれがいいですか?」

 年下後輩の模範的回答を晃汰は披露し、すぐさま西野に近づく。 そして彼女の好きなものをとりわけ、それを彼女の口元に運んだ。 

  「なあちゃんに優しすぎない? なんかあんの?」

 不貞腐れたように生田が吐き捨て、それを聞き逃さなかった晃汰は再び彼女の機嫌取りに回る羽目になった。 

 そんなこんなで全関係者が集う食事会はお開きとなった。 音楽監督である晃汰が最後の締めを行い、これでひとまずのツアーが完走となった。 翌日はOFFの業務指示が出されており、尚且つバスの出発は昼に近い時刻に設定をされている。 年長組は衛藤を筆頭に酒を呑みたいと主張している為、1期生の成人組は晃汰を連れて二次会へと向かった。 まだ二十歳になれていない和田と齋藤飛鳥に、晃汰は詫びを入れた。

  「今度ご飯奢れ」

 年上だろうと関係なしに、齋藤飛鳥は晃汰に予約を入れた。

  「いつでもいいぜ。 ただ、1対1はだめだからな」

 晃汰は悪戯な笑みで返事をし、飛鳥が笑顔に戻るのを確認して、1期生のお姉さま方の後を追った。 

Zodiac ( 2018/05/14(月) 21:34 )