AKBの執事兼スタッフ 2 Chapters











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第5章 47人目のギタリスト
43 Storys 〜プレゼント旅〜
 仙台での三日間のライヴが終わると、突如として一日だけの休暇がメンバーやスタッフ、関係者に与えられた。 数日後には大阪でのライヴが控えている為、運営側としてはもう少し長い休みを用意してやりたかったが、一日だけという苦渋の選択になった。 それでも久しぶりの休暇にメンバー達は大いに喜び、メンバー間で遊ぶ計画などを立てている。 

  「晃汰もどこか行こうよ!」

 何年ぶりの休暇といった具合に興奮をする斉藤優里が、メガネをかけてスマホを操作する晃汰を誘う。 

  「彼女の誕生日をお祝いするんで、また今度誘ってください」

 ニヤけながら斉藤に晃汰は答えてしまったものだから、斉藤はいつもの素っ頓狂な声で周りのメンバー達に助けを求めた。 その様子を微笑みながら見ている晃汰は、過ぎ去った森保の誕生日会の計画を熟考する。 もともと誕生日会はツアーの関係で遅れてしまうことは森保にも話していて、彼女としてはお互いの時間が取れるタイミングでいいと言っている。 だが、晃汰は決めたらすぐ実行に移す正確なため、多少慌ただしくなってもこの休暇の日にやりたいと考えている。

  「その日はちょうど仕事で東京にいるよ。 マネージャーさんに上手く言って帰るのは次の日のお昼ぐらいにしてもらうよ」

 突然の祝賀会の計画に森保は驚きはしたが、嬉しさの方が勝ってしまい、その日に二人だけのパーティーをすることに決まった。 
 
 そんな彼女とのやり取りをLINEで行っていたため、晃汰は始終締まらない笑顔でスマホを眺めていた。 彼を取り囲むメンバー達はその様子を引き気味に見ていて、齋藤飛鳥なんかはド直球に とうとうおかしくなったか などと吐き捨てていた。

 そんなことがあってもなお、晃汰はスマホを口元を緩めながら凝視し、周囲のメンバーはやれやれといった表情を浮かべている。 

  「じゃ、お先で〜す!!」

 わずかな荷物を持った晃汰は威勢よく立ち上がり、そそくさと帰っていた。 彼がいなくなった部屋では、晃汰の彼女について知らないメンバーが根も葉もない噂を信じ、その火消しで白石と衛藤は奔走することになった。

 誕生日会当日の朝、晃汰はいつも通りの時刻に起きた。 今朝はいつもよりも目覚めがよく、彼はパッチリと眼を開いて部屋に朝日を入れる。 寝巻のまま洗顔と歯磨きを終え、朝食をとるためにダイニングへと向かう。 シェフの福田が腕によりをかけた食事が運ばれ、晃汰は手を合わせて箸を動かし始める。 福田は調理がひと段落付き、晃汰のそばに立っている。 そんな彼に、晃汰はいつも美味しい食事を作ってくれていることに対する感謝と、突然のフルコースの要望について謝罪をする。

  「大丈夫だよ。 森保さんは嫌いな食べ物が無いってことでいいんだよね? 晃汰の嫌いなものはもうわかり切ってるけど・・・」

 福田はなんのそのと言わんばかりに笑い、晃汰の肩を叩く。 晃汰は自分の弱点を指摘され、苦笑いを浮かべるほかない。 幾つか認識合わせを彼らはして、福田は厨房へと戻っていった。 和風な朝食を残さず平らげると、食休みを入れずに晃汰は席を立った。 部屋に戻るとすぐに着替えを済ませ、出かける準備を彼は整える。 

  「5時に迎えに行くから、6時前には家に着くと思う。 買い物済ませたらその前に一旦帰ってくるから、また打ち合わせしよう」

 サングラス越しに、晃汰は吉田を見る。 いつもの姿勢を崩すことなく、吉田は晃汰に答える。

  「存じております。 どうぞ、お気をつけて」

 玄関の扉をあけ、吉田は晃汰を笑顔で送り出す。 晃汰は笑顔で頷き、颯爽と歩き出した。

  「サングラスだけでも大丈夫なものだね。 まぁ、そこまで有名じゃないしな」

 地下鉄を下車し、地上へと上がる階段を踏みながら、晃汰は小さくつぶやく。 神宮のリハーサルの時とは一般人の反応が雲泥の差で、彼に話しかけてくる者などなかった。 その事が晃汰にとっては心地よく、最愛の彼女への贈り物を選ぶ時間が増えることとなる。 

  「ブランドは・・・で、予算は十万円ぐらいで見積もってるんですけど、良いのありますか?」

 高級時計店へと入った彼は、すぐに店員にアドバイスを求めた。 自分で探し当てて購入する選択肢も彼にはあったが、なにせ時間が限られているため、最速で良い物をいくつか候補として挙げておきたいのである。 

  「それですと、こちらはどうでしょうか」

 髪をぴっちりと分けた女性の店員は、いかにも女性受けしそうなレディースの腕時計を指し示す。 森保へのプレゼントを腕時計と決めた晃汰は、彼女がその時計を腕にはめている姿を想像し、大いに悩む。

  「もっと、こう、何て言うんでしょう・・・ エレガントというか、なんというか・・・」

 言葉では表せない頭の中でのイメージを晃汰は必死に、目の前で親身に相談をうけてくれる女性店員に向けて思いを伝える。 その都度、女性店員は嫌な顔一つせず、彼のイメージに合う時計を選んでは、晃汰にすすめる。 そんな事を何回も何回も繰り返し、かれこれ晃汰が入店してから一時間が過ぎた。 店員はもう店にある商品は出し尽くしたとお手上げで、晃汰は目の前に置かれた五つの時計の中から選択を求められた。 ほかのブランドには興味がなく、彼はこの中から、森保がつけることでお互いが一層輝くような時計を決めることにした。 すっと目を閉じ、晃汰は瞼の裏に森保の後姿を見る。 長い手足がスラリと伸び、上品なドレスに身を包む彼女は正に淑女(Lady)であった。 こちらの存在に気付くと笑顔で手招き、その包容力に包まれそうなほどである。 眼を開け、晃汰は己の直感に任せて時計を選んだ。 丁寧にラッピングをしてもらっている間に、晃汰はカードで支払いを済ませた。 

 表参道のお洒落なカフェテラスで、ちょっとした昼食と珈琲を楽しむ。 ”インスタ映え”を狙った写真を上手く撮ることに成功した晃汰は、勢いをそのままに、インスタグラムへと投稿した。 あっという間に「いいね!」が増えていくのを見向きもせず、晃汰は食事を楽しむ。 アイスコーヒーのグラスに付着する水滴が滴り落ち、彼のズボンのふとももを濡らす。 ムービースタアになったかのように、晃汰はキメて珈琲を吸い上げ、サングラスをずらした。

 晃汰はその後、行きつけの楽器屋に立ち寄り、ピアニストの森保に向けた音楽に関係するプレゼントを探した。 その結果、楽譜をファイリングできる入れ物、レッスンバッグを買い求めて彼のプレゼント探しは完了となった。 目的を達成した彼は、横目を振らずに家路へとついた。 地下鉄を乗り継ぎ、最寄りの駅からはタクシーに乗って帰宅した。 

 一時間ほどで家に到着すると、いったん自室へと戻った。 森保を迎えに行くにはまだ時間があるため、シャワーを浴びて昼寝でもしようと彼は考え、着替えを持ってバスルームへと向かった。

■筆者メッセージ
年内の更新は、あと1回するかしないかです・・・ 皆さま、今年も一年、お世話になりました。
Zodiac ( 2017/12/30(土) 21:30 )