AKBの執事兼スタッフ 2 Chapters











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第4章 坂シリーズ
38 Storys 〜アクシデント〜
 雨が降りつける中、ファンと同じようにびしょ濡れになった演者たちは、頭のねじが吹っ飛んだように踊り狂い、叫ぶ。 身体よりも楽器が大切なバックバンドメンバーは、雨水の被害を受けない特設防水シートの下で演奏をする。 一人を除いて・・・

  「ギター、マルヤマ!!!」

 リハーサル期に互いに酒を酌み交わした間柄の白石が、ギターソロ突入直前に、ギタリストを指さしながら叫んだ。 すべてのスポットライトが彼を照らし、ステージ両脇の巨大モニタにはギタリストの手元がアップで映し出される。 メンバー達がセカンドステージと花道で観客を煽るなか、晃汰は雨に濡れた髪をオールバックにし、歩きながら『ガールズルール』のギターソロを弾く。 決してテクニカルではないが、曲調を崩すことないアドリブでファンを沸かせ、メンバー達の歌唱に華を添える。 

 大雨が収まる兆候はなく、むしろ強さを増していく。 だが、雨足が強くなればなるほど、メンバーとギタリストのテンションは反比例に上昇していく。 だが、そんな彼女たちを凍り付かせるアクシデントが起こる。 それは『夏のFree&Easy』の時に起きた。 何の迷いもなくハイトーンを響かせて間奏を弾くギタリストではあったが、明らかにギターの音がノイズを出しながら途切れ途切れになるのを、ファンもメンバーも、バックバンド組も、本人も聴きとっていた。 演出を丸無視してメインステージとは遥かに遠いセカンドステージまで出てしまっていたギタリストは、メイン器を偽イティスに変えることなく、そのまま『夏のFree&Easy』に入った。 だが、その絶対的な信頼を置くメインの布袋モデルが、恐らく雨水の影響で出音が満足にできない状態となってしまった。 なんとかギターソロは完走したものの、続くギターのベース音と白石・西野のツインボーカルの部分で、晃汰のギターから音が出なくなってしまった。 

  「夏だけに、やってくれたゼ・・・」

 歌詞と夏の豪雨をかけて皮肉を呟いた晃汰は、肩からメイン器を外して片手に持ったまま、メインステージに走った。 花道の途中で偽イティスを持ったローディーと合流し、楽器が合わさる部分にギター音を間に合わせることができた。 祈るような眼で彼を見ていたメンバー達は笑顔に戻り、パフォーマンスを再開する。 戻ってきたギタリストの頭を白石は軽くはたき、西野は彼の肩を強くたたいた。 

  「もう! ギターの音が出なくなった時、私となあちゃんで目合わしちゃってたんだから! 『どうしようどうしよう』ってさ!!」
 
 なんとかセクションを終えて裏側に戻ってきた直後、白石は晃汰の背中を笑いながら思いっきり平手打ちをした。 続く西野は彼の両肩をつかんで、晃汰の身体を前後左右に揺らす。

  「本当にすいません! ヤバイって思って、すぐ走ってギター変えたんで許して下さい」

 てへぺろと言わんばかりに、晃汰は舌を出しながら二人に掌を合わた。 そんな様子を遠くから見ていた齋藤飛鳥が、晃汰に走り寄ってきた。

  「『裸足でSummer』でミスったら、承知しないからね!」

 いつにも増して強気な口調で、年上ギタリストに齋藤は忠告した。 宣戦布告と捉えた晃汰は、見下しながら彼女に答える。
   
  「飛鳥こそ、ダンス間違えたら弾いてやらないからな」

 目には目を歯には歯を。 お互いに宣戦布告をしあった二人は、笑いだしてハイタッチを交わした。

  「アンコール、スタンバイお願いします!」

 再演の合図が出る。 ギタリストは今の今まで一緒にいた白石に西野、齋藤に右手だけで挨拶をし、自分の位置へと急いだ。 フィニッシュに向け、晃汰の身体は燃えるように熱くたぎるのであった。

■筆者メッセージ
お久しぶりになってしまいました。 前回はメンバーの発言シーンがなかったので、今回はいつもよりも多く(?)入れてみました。 感想、おまちしてます!
Zodiac ( 2017/11/24(金) 21:10 )