AKBの執事兼スタッフ 2 Chapters











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第4章 坂シリーズ
26 Storys 〜居候〜
  「ほら晃汰、帰るよ!」

 白石と衛藤はお互いの胸の内を明かすことにより、各々感じていた”卒業”が少しだけ軽くなった気がしていた。 しなければいけないモノという位置づけは変わってないが、そのことに関して悩んでいる人間が少なからずいるという認識は、二人を確実に重圧から解放したのである。 そして彼女たちは、今は晃汰の細長い身体を介抱しているのである。

  「ねえ美彩、晃汰の家とかってわからないよね・・・?」

 テーブルに突っ伏す晃汰を必死に揺り起こす白石が、向かいの衛藤に訊ねる。

  「うん・・・ いまグループで聞いてみてるんだけど、誰も知らなそう」

 スマホを両手で持つ衛藤の表情は曇っている。

 少し経ち、やっとギタリストが目覚めた。 だが酔いが激しいようで、戻したりはしないのだが、歩くので精一杯という様子である。

  「私、連れて帰っちゃおうかな。 近くだし」

 ふと、衛藤がボソッと呟き、冷たい水を飲んでいた晃汰はむせた。

  「・・・そうだね、このまま帰すの怖いし、私も泊っていい?」

 白石は首を縦に振りながら、衛藤の眼を見る。

  「いやいや、ちょっと待ってくださいよ! 俺なら帰れますから、大丈夫ですって・・・」

 必死にかぶりを振った。 だが、衛藤と白石は冷たい眼をしていた。 

  「あのねぇ、今の今までダウンしてて、千鳥足で歩く二十歳を帰せると思ってんの? これで晃汰が事故でも起こされちゃうと、私たちの責任になっちゃうんだよ?」

 衛藤が普段見せないような真剣な眼を晃汰に向ける。 正常に思考が働かない頭でも、晃汰はしっかりとビー玉のような衛藤のその眼を見る。 有無を言わせない、確固たる強い意志がその眼に現れていた。

  「・・・すいません、お世話になります」

 晃汰は諦めて肩を落とし、衛藤はにっこりと笑ってタクシーを手配した。 

 衛藤の部屋は、都内のタワーマンションの一室だった。 時間も時間だったから、近所の人間の眼を気にすることなく部屋に入り込めた。 

  「はい、アクエリ」

 ソファに晃汰を座らせた衛藤は、冷蔵庫から冷えたスポーツドリンクを持ってきて彼に手渡した。 そして、もう一方のてにはアルコール度数5%のサワー缶が握られていた。

  「美彩センパイ、まだ飲むんですか!?」

 虚ろな眼でも、しっかりと晃汰は衛藤が持つ缶を認識していた。 ギタリストのそんな言葉も気にせず、衛藤は喉を鳴らして胃にアルコールを流し込む。

  「えぇ!? 美彩また飲むの!?」

 少し遅れて衛藤の部屋に入ってきた白石も、晃汰と同じようなリアクションを見せる。

  「晃汰のお世話で喉乾いちゃった。 これだけよ」

 晃汰と白石はやれやれといった表情で目を合わせた。

 その後、白石が最初にバスルームへと向かった。 だいぶ酔いがさめてきた晃汰ではあったが、今度は激しい頭痛に襲われている。 気を利かせた衛藤が、濡れタオルを晃汰の額においてやった。 

  「本当にお酒弱いんだねぇ」

 年下男子をかわいがるような典型的な口調で、衛藤は晃汰の頭を撫でる。 

  「美彩センパイ、一応言っときますけど、俺、男ですよ? 本当に泊めてもらってもいいんですか?」
 
 ふらつく頭でも、晃汰は気を遣うことを忘れない。
 
  「いいのよ、晃汰のことソウイウ事する子だと思ってないし。 それに、晃汰となら寝てもいいし・・・」

  「え!?」

  「フフフ、冗談だよ。 可愛いなぁ」

 衛藤の大人すぎるジョークに、まだ子供な晃汰はアタフタすることしかできない。

  「でさでさ、彼女とはどこまでいったのよ?」

 衛藤は興味津々で晃汰たちの事の成り行きが気になるようで、彼の頭を撫でながら衛藤は訊ねる。

  「え〜・・・ ちょっと深いキスまでですよ」

 晃汰は隠す様子もなく、あっさりと答える。 衛藤は少しショックなようである。

  「え、その先は?」

 あんたはアイドルだろ と晃汰は突っ込みたかったが、飲み込んで続ける。

  「まだです。 なので、まだ未経験です」

 衛藤は口元を両手で覆い、目をひん剥いている。 よほど彼女にとっては予想外だったようである。 

  「じゃあまだ誰も抱いたことがないのかぁ」

 そう言って、衛藤は二本目の缶をいい音をさせて開ける。 晃汰はもう何も言わない。

  「私は高校生の頃から芸能活動してるから、彼氏はいたことないし恋愛もしたことないし・・・ 正直、すごい羨ましいなぁ」

 衛藤は甘い声で晃汰の顔に自身の顔を近づける。 対する晃汰は、息をのんで彼女を見つめる。 

  「美彩センパイ、呑みすぎですよ。 少しは自重してください」

 晃汰は衛藤に警告する。 そんな衛藤と晃汰の顔は徐々に近づくが、ここで衛藤がとうとう力尽き、晃汰の胸に頭だけを乗せる形で寝落ちした。 ソファに寝転がる晃汰の胸に衛藤が頭をのせ、傍から見ればもはやカップルである。

  「ハァ〜気持ちよかった。 美彩、お先〜」

 そこへタイミング悪く、白石がバスルームから戻ってきた。 そして、二人の姿をしっかりと見てしまったのである。

  「晃汰、まさか・・・」

■筆者メッセージ
今回は相当長くなってしまいました。次回は白石編です!!
Zodiac ( 2017/09/14(木) 20:37 )