23 Storys 〜同士〜
橋本から卒業を打ち明けられた翌日、前日と同様に全体リハーサルが朝から晩まで行われている。 ただ、どうやらギタリストの様子がおかしいようで、休憩時間や裏でメンバー達は心配そうに噂をしている。 室内でもサングラスをする機会の多い晃汰ではあるが、いつもは読み取れる表情も今日は曇っている。 そればかりか、踊るようにギターを弾くのが彼の特徴でもあるが、今回は全くと言っていいほどアクションにキレがない。
「どうしたの? 元気ないじゃん」
お昼休みとなり、独りでエフェクターの設定を微調整する晃汰のもとに、乃木坂のお色気担当が近づいた。
「そんなことないですよ、至って元気ですよ」
空元気を衛藤美彩に示し、再び視線を足元のエフェクターに、ギタリストは落とす。 ため息を吐きながら、衛藤はそんな年下男子に肩を落とす。
「あのねえ、隠しても無駄だからね? みんな気づいてるよ、今日の晃汰は変だって」
オフショルの肩を直しながら、衛藤は目の前のウジウジ男子を律する。 ようやく彼女の言葉に立ち上がった晃汰は、後からやってきた白石にも背中を押されながら、ケータリングのあるブースへと向かった。
衛藤や白石の考えでは、ここで晃汰がいろんなメンバーと触れ合っていつもの調子を取り戻すことを願っていた。 だが、現実はそうはならなかった。 作り笑いでメンバーとの会話と食事をこなし、そそくさとスタジオへと戻ってしまった。 ギターを手にし、マイナーコード中心の暗く思いサウンドを独りで広げている。
「これは重症ね・・・」
扉に取り付けられた窓から覗く衛藤が、隣の白石につぶやく。
「相当ね・・・ どうしよっか・・・」
白石も八方ふさがりな様子で、眉間にしわを寄せてしまった。
すると衛藤が突然扉を勢いよく開き、晃汰に近づく。
「ねえ晃汰、このあと仕事ある?」
色気たっぷりの声で、衛藤は年下男子に上目遣いを披露する。 死んだ魚のような眼をサングラス越しに衛藤に、ギタリストは向けた。
「ないですけど、彼女いるんでソウイウのはだめですよ?」
「いや、ソウイウことってどんなことよ!」
これぐらいの冗談が言えるならまだ大丈夫かな と衛藤は少し安心して続ける。
「じゃあさ、リハ終わったら飲みに行こうよ。 まいやんも誘ってあるからさ」
満更でもないような表情を晃汰が浮かべるのを確認し、衛藤はピックが握られているギタリストの右手に自身の手を重ねた。
「・・・悲しいのは晃汰だけじゃないから」
ハッとして晃汰は、目の前の色気たっぷりの美女を見上げる。 悲しみに飲み込まれてしまわないように、必死に歯を食いしばっている衛藤がそこにはいた。 自分だけの悲しみじゃないと晃汰は深呼吸をし、立ち上がった。
「酒弱いんで、潰さないでくださいね」
晃汰のこの言葉に衛藤はすっかり笑顔を取り戻した。 衛藤をスタジオに残して廊下を歩く晃汰は、始終をみていた白石と鉢合わせた。
「知ってたんですね、みさ先輩もまいやんさんも・・・」
ため息を吐いた晃汰は白石の隣の壁に寄り掛かった。
「まいやんさんも、卒業するときは言ってくださいね・・・?」
弱々しい声をあげる晃汰の頭を優しく撫で、白石はスタジオへと消えていった。