AKBの執事兼スタッフ 2 Chapters











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第3章 博多の活躍
13 Storys 〜Hot & Hot〜
 開演予定時刻を10分ほど過ぎた頃、客電が順に消えていく。 観客はどよめき、一気に席を立って腕を振り上げる。 晃汰がリミックス、アレンジ、そして演奏まですべてを彼一人でこなしたSE(Sound Effect)、HKT48の楽曲のフレーズなどをミックスした 「Greatest HKT48's Medley」 が会場内に流れる。 晃汰お得意のROCK調にアレンジされた名曲たちが次々と蘇り、粋な演出にオーディエンスの熱気はメンバーの登場を待たずに、既に最高潮である。 

 目を瞑って何かを口ずさみ、軽やかなステップを踏むギタリストが舞台袖にいた。 他人から見ても奇行と思われていることは本人も知っているが、彼としては自分の世界に入り込んで自分の求める理想像に自身を近づけているのだ。 

  「バックバンドメンバー、お願いします!!」

 誘導係の声がステージ裏に響き、晃汰は眼をあけた。 傍らに待機していた京介が、彼にギターを手渡す。 そして固い握手を交わし、勇ましくステージへと出て行った。 
 演奏中の晃汰は、ワイヤレスシステムを存分に使っていた。 もはや定位置にいる時間の方が短く、殆どを花道や別ステージで演奏している。 メンバーとアイコンタクトを交わし、踊りながらギターを奏でる姿はエンターテイナーそのものであった。 矢吹奈子と田中美久が彼の両隣でエアギターをかき鳴らしたかと思えば、エロティックなムードの中、松岡菜摘・坂口理子の両名と意地悪な視線を交わらせている。 決して速弾きやメタリックなテクニックを多用せず、ボーカルに纏わりつくようなギターを彼は心がけている。 それは晃汰の師の布袋氏がモットーとしている事であり、師匠を真似ていた弟子には当たり前の事であった。

 ライヴも中盤になり、バラエティ担当メンバー達によるMCコーナーとなった。 晃汰を含むバックバンド組は舞台裏に引っ込んで、束の間の休息を取っている。 背もたれが付いた椅子に深く腰掛けている晃汰は、目を瞑って天を仰いでいる。 全国ツアーも最終公演となれば、今まで蓄積されていた疲労が一気に体中を駆け巡るのも無理はない。 だが彼はそんな姿を決まって他人には見せたがらない。 大親友の京介にもさえだ。 今だってステージ袖に簡易的に作られた個室で、静かに再演のときを待っている。 
  「スタンバイお願いします!」

 スタッフの一人が晃汰にこえをかけ、それに快く応じる晃汰。 軽くストレッチをしたギタリストは、重い足をあたかも軽やかに見せるようにステージに向かった。

 折り返し地点を過ぎた晃汰のテンションは異常だった。 いや、本人に取ったら正常なのかもしれない。 ステージを所狭しと駆け回りながらしたーを鳴らし、メンバーと1対1でダンスバトルを繰り広げる。 指原が晃汰の口にマイクを当て、晃汰はそこにコーラスを吹き込む。 その2人のやり取りが往年のロックバンドの、ボーカリストとギタリストを彷彿とさせ、オーディエンスはさらに熱狂する。 ターンをすればメンバーのスカートの裾が揺れ、走れば晃汰のロングコートの裾がはためく。 そんな動きも合わさって、ステージ上はやけに躍動感にあふれている。 誰しもが額に汗をかき、せっかくセットした髪形を崩し切ってしまった。

■筆者メッセージ
だいぶ遅くなってしまいましたが、また細々と書いていきます
時間軸がだいぶずれてしまうと思いますが、ご容赦ください
Zodiac ( 2016/10/02(日) 21:10 )