誘惑
01
雨に打たれ、友一はずぶ濡れになった。

そして、雨に打たれるはずのない心まで、捨てられた猫のように廃れた。

「・・・ほんと呆れるよね。あの人には。」

普通の人が聞いたらなんの変哲もない女子の声なんだろう。しかし、今の友一にとっては、周りの心臓の奥まで届きそうな位の響きだった。

「!?」

情けなく顔を上げると、そこには見た顔があった。

「綾巴さん・・・だっけ?」

友一が尋ねると、綾巴は微笑んで、

「覚えててくれたんだ。」

と言った。
     

                ◇


「はい、どうぞ。」

綾巴に借りたタオルで頭を乾かしていると、温かいココアを手渡して来た。

「ありがとう・・・」

友一はタオルを返し、代わりにココアをもらった。

ここはとある公園。最近できた場所で、休日は子供達が野球や鬼ごっこをやりに大勢で来る、とても大きい公園だ。
その一角にある屋根付きのベンチで、二人は雨宿りをする事にしたのだ。

「兄がほんとにごめんなさい。」

綾巴は少しうつむきながら言った。

「謝らなくてもいいよ。君は悪くないし。」

友一がなだめると、綾巴はとなりに座った。そして、静かに口を開いた。

「これで何回目だろう・・・飽きないのかな?」

「飽きないって、どういう事?」

遠い目をしてつぶやく綾巴に、友一は尋ねた。

「兄さん、気になる子を見つけてはさっきみたいなことをするの。そして例外なくすぐ飽きて切り捨てる。でも、恋人がいる人にこんな事をするのは初めて。」

なんと、雄伍はこんな行為をずっと前から行っていたのだ。友一は彼を心から恨んだ。
しかし、内心では、阿弥が切り捨てられて、自分の所に戻ってくるのではないかという期待もしていた。

すると、そこに・・・

「友一ぃぃぃ!」

向こうから声が聞こえた。声が聞こえた方を見てみると、保護者会からの帰宅途中だった友美が、こちらに向かって走ってくるのが見えた。

「大丈夫?傘持って無かったでしょ?ほら、入れてあげる。」

そう言って、自分の横を指差した。

「ありがとう。君はどうする?」

友一が綾巴に尋ねると、

「大丈夫。一人で帰るから。」

と言った。

「じゃあ、僕はこれで。」

友一が別れを告げると、綾巴は優しく微笑み手を振った。
友美も綾巴に一礼し、友一と共に去った。

「あの子、誰?」

「まあ、知り合い。」

「あっそ。」

そんな他愛の無い会話を交わしながら、帰宅した。












darkhero ( 2014/05/28(水) 18:26 )