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(さて、荷物は全部しまえたなぁ)
私はロッカーの中を見つめ、そう思った。
私の名前は琴望
今日で5年間お世話になったSKEを卒業する。
活動最終日の今日、これまで使ってきたロッカーの中を整理しに来たの。
(いろんな事、思い出すなぁ。)
グループ内での試み、「ドラフト会議」で指名されてSKEに入った私。
SKEの皆さんから必要とされて入れた事。
「こーっちゃん!こーっちゃん!」
こっちゃんという私のニックネームを360度全方位からファンの皆さんが叫んでくれたじゃんけん大会。
私はこの大会でカップリング曲だけどミュージックビデオを作って貰えた。
その事と、そのために私を支えてくれたファンの皆さんの事、それは今でも誇りになっている。
「こっちゃん、私もSKE入ることになった!」
全く想像してなかった、後輩としてのお姉ちゃんの加入。
お姉ちゃん、色々あって先に卒業しちゃったけど、同じグループに居られたこと、SKEの一員で居られたことは誇りに思ってるみたい。
SKEというアイドルグループ、そのファンの方どちらにも愛してもらえた。
(私って幸せ者だったな。)
改めてそう思えた。
荷物を全てまとめてマネージャーさんとお母さんが車に運んでくれた。
「こっちゃん、もう思い残すことはない?」
マネージャーさんがそう言ってくれた。
思い残すこと……
「もう一度、劇場全体を見て回っても良いですか?」
「うん、戻ってきたらまた連絡してね。」
今はファンの方が通るゲートも閉まってる。
だからギリギリの所まで見れる。
私は大学に進学する。
だから今度来るのがいつになるのか分からない。
それなら今のうちにと思って。
舞台袖からステージへ。
何度もここで歌い、踊ったけどそれももう無い。
卒業公演はしたけど感慨深いなぁ。
舞台裏の通路を抜け、扉を開けるとロッカーがある。
ファンの皆さんが公演の前に使ってきた物だと聞いていた。
その近くにはファンの皆さんが劇場の中に入る扉。
そしてその横にはお手洗いがあった。