02
その蓋を上にあげると。
「やっぱりそうだ」
簡易トイレになっていた。
前に1度、朝の情報番組で紹介されていたのをほぼ奇跡的に覚えていた。
「確か……」
トイレの座る所のようになっている蓋の中には水や食べ物、手拭き、それに。
(トイレットペーパーやカーテンまであるんだ!)
目隠しになるシートには
「カーテンにもなります」
と、書いてあった。
(これなら、してる最中に動いてもなんとかなりそう……)
一瞬、その安堵の気持ちが出たんだけれど。
(ギュルルルル)
逆にもう大丈夫と勘違いしたのか、私のお腹は悲鳴をあげた。
(うぅ、もう少しだけ待って!)
急いで準備をする。
黒い袋が予めセットしてあった
目隠しに使う銀色のシートには留めるテープが両端にある
まさか本当に使う日が来るとは思わなかったけど、まさに背に腹は変えられない。
シートのテープを壁につけ、三角型のスペースを作る。
銀色のシートは足元まで覆える大きさで、天井が見えてることを除けばほぼ個室のような状態だった。
(凄い!)
これなら、最悪の事態を避けられる。
カーテンの中に入り、スカートをまくしあげようとしたその時
(あっ、防犯カメラ……)
私が作ったスペースの真上に防犯カメラがあった。
(これ、大丈夫なのかな?)
一瞬そう思ったけど。
(ギュルルルルル)
もうお腹は待ってくれない。
きっと、カメラの先の人はやましい人じゃない!
そう信じて、スカートを上げてパンティを膝まで下げた。
簡易トイレにしっかり収まるように、膝を内股にして座る。
そこから数秒もしなかった。
(ブッ、ブリッ、ブジュリリッ)
(やだ、音が大きい……)
できるだけ音が出ないようにとは思ったけど、少し出てしまった。
普段は音を消してるから、誰もいないのに恥ずかしくなった。
だけどやむを得ない。
(ブリッ、ブリリッ……)
(シュ、シュワワワワワシュウウゥ)
(ふぅ……)
ひとまず最悪の事態を避けることが出来た。
お腹の痛みも一気に消えていく。
かなり冷や汗をかいたけど、間に合って本当に良かった。
ウォシュレットがないけど、それもなんとかなるだろう。
そう思い、トイレットペーパーを巻いてお尻にあてがう。
1度中に入れて、もう一度ペーパーを巻いて女の子の部分にあてがう。
そのペーパーを袋に入れて、消臭剤と凝固剤を入れる。
袋の口を閉じる。
ウェットティッシュで手を拭く。
(何とかなって良かった〜)
もうお腹を冷やさないように温めていると。
(ウイィン)
エレベーターが動き始めた。
(やった!)
そして、ドアが開く
「大変お待たせしました!ご迷惑おかけして申し訳ありませんでした」
エレベーターの係員さんが真っ先にそう声をかける。
「いえ、ありがとうございます」
そう答えた後。
(あっ、そういえば……)
「アレはどうすれば良いですか?」
組み立てた仮設トイレセットを指さす。
「はい、こちらで直しておきますね!」
良かったぁ。
持ってるものは固めてあるから燃えるゴミで処分してくださいと、説明書きにあった。
ひょっとしたら係員さんは分かってるかも……
でも、背に腹は変えられなかったから、これで良かったと思う。
やっと家に帰れる!
そう思いながら、私は通路をかけて行った。