02
「あー、ほら、やっぱ優羽だ」
「優羽ー、お前、久しぶりじゃん」
バイクに乗っているのは優羽より派手な格好をした若い男の子たち。後ろに女の子を乗せている者もいる。
優羽は美穂から目をそらし、バイクに乗った若者たちに向かって、ちょっと面倒くさそうに片手を上げた。
「お前さ、最近付き合い悪いと思ったら、こういうことだったんだ」
「こういうこと?」
「女と会うのが忙しくて、俺らと遊んでる暇はねぇってか?」
「はぁ? ふざけんなよ。こんなやつ、全然タイプじゃねぇっつーの」
ムッとした顔の美穂を隠すように優羽が一歩前に出た。
するとバイクの後ろに乗った女の子が美穂に向かって指を指して言った。
「えー、けどあたし見たよぉ? お祭りの時も一緒だったじゃん。この子と」
「マジ? だから俺らが誘っても、断ったわけね」
「違うって」
「ていうかさ、最近お前、俺らのこと、バカにしてね?」
髪を灰色に染めたリーダー格の男が優羽に向かって言った。優羽がさりげなく顔をそむけたのを美穂は気づいた。
「転校生だったお前と、仲良くしてやったのは、俺らだけだったよなぁ? なのにお前は俺らのこと、友達だと思ってないわけ?」
「そんなこと、言ってねぇし……」
灰髪の男がバカにしたようにははっと笑う。
「もう東京になんて帰れないんだろ? お前が見下してる、このクソ田舎で暮らすしかないんだろ? だったらお前みたいな中途半端なやつが、ここでやってくにはどうしたらいいか、わかってるよなぁ?」
からかうように周りの男たちが笑う。
「まぁ、これからも仲良くやろうぜ」
エンジンをふかし、男たちが去って行く。
優羽はぼんやりと突っ立ったまま、バイクの影が見えなくなるまで見送ると美穂に背を向けたまま呟いた。
「じゃあな、美穂」
「え……」
「わかったろ? オレなんかといるとああいうのに絡まれる」
「ちょ、ちょっと待って」
歩き出した優羽を追いかける。優羽の右手には美玲のパンが入った紙袋が握られている。
「ちょっと待ってよ。なんなの、あいつら。あんなやつらと仲良くすることなんてないよ!」
美穂の声に立ち止った優羽がくるりと振り返った。
「あんなやつら、友達なんかじゃないでしょ? もっとガツンと言ってやんなよ」
「お前、やっぱり何もわかってないな。これ以上、敵増やしてどうすんだよ?」
優羽が呆れたようにため息を吐いて背を向ける。
「バカなやつらとつるんでるってわかってても、そうするしかねぇんだよ。結局、ここから逃げられないんだし」
優羽の着ているTシャツに夕陽が当たる。美穂はそんな優羽の背中に呟く。
「だったら私が友達になる」
美穂の声に優羽がもう一度振り返る。
「私が優羽のたった一人の友達になるよ」
優羽は黙って美穂を見た。美穂もそんな優羽の顔を真っ直ぐに見つめる。
「……バカかよ? お前」
ぽつりと呟いた優羽の前で美穂はへへっと笑った。
優羽は美穂から視線を外してまた歩き出す。美穂は少し小走りで優羽の隣に並ぶ。
「これからどうするの?」
「どっかで時間つぶして、メロンパンでも食うよ」
「だったら、うちに来なよ?」
優羽が美穂を見る。
「ま、うちって言っても、美玲ちゃんのうちだけどさ」
「お前って……ヘンなヤツ」
「優羽ほどじゃないよ」
軽く握ったこぶしを美穂に振り下ろす。美穂は笑って、そんな優羽の手をキャッチする。
「バカじゃねぇの?」
もう一度つぶやいた優羽はそのまま美穂の手を握り締め、美玲の家に着くまで離してはくれなかった。