05
更衣室で着替えていると隣のクラスの城野一志が近づいて来た。彼は去年まで樹と同じクラスで、数少ない友達の一人だ。
「さっき、そっちクラスの女子、随分とやられてたな」
一志はいきなりそんなことを言った。
「見てたのか?」
樹はどう答えるのが一番自然なのか分からず、とりあえずそう返した。
「まぁ、あれは明らかに一人を狙って攻撃してたからな」
「でも、なんでだろうな?」
樹にはそれが正直な疑問だった。小林はいつも孤独なのだから人畜無害のはずである。人から妬まれたり、恨みを買う人間には到底思えなかった。
「妙な噂があるらしいんだ」
一志は声を落として言った。
「噂?」
「そ、どうやら彼女は不良らしいな」
「不良?」
樹は驚いて聞き返した。にわかに信じられなかった。確かにぶっきらぼうな面はあるが、決して不真面目というわけではない。毎日きちんと学校に通って、授業もしっかり受けている。
樹は一日中隣に座っているから分かるが、彼女は不良なんかではない。
「何かの間違いじゃない?」
「いや、女子が話しているのを聞いたんだけどな、放課後ヤバい所に出入りしたり、校内でタバコ吸ってるって話だ」
ますます見当違いのことを言う一志に樹はついつい笑ってしまった。
「あり得ないな。みんな、あの娘を誤解しているよ」
「で、うちのクラスの女子らにとってあれが制裁のつもりだったんだろうな」
樹の言葉を聞かずに一志はなおも続けた。
「制裁?」
「そ、中途半端な不良は叩かれるんだよ」
「どういう意味だよ?」
樹は着替えの手を止め、一志に聞いた。
「本物の不良だったら後が怖くて手が出せないだろ? けど、仲間もいなくて、身体も強くない不良なら叩いても平気ってわけさ」
「なっ……」
何とも勝手な理論だ。本当に制裁を加えたいのなら、むしろ本物の不良にこそすべきではないのだろうか。中途半端な不良なら、話し合いでけりが付く。つまるところ、これは単なる弱い者いじめに過ぎない。こんな馬鹿げたことに付き合わされてる小林が可哀想だと樹は憤りを感じずにはいられなかった。
「お前もあんまり関わらないようにしろよ」
一志は最後にそう付け足し、更衣室から立ち去った。