03
クラスは昼食の時間を迎えていた。
樹はいつものように弁当箱を取り出すと一人で食べ始めた。
隣には髪を肩まで垂らした小林の横顔。彼女は鞄の中から菓子パンを一つと小さな飲み物を取り出した。昼食は毎日決まってそれだけだった。
そのくせ彼女はいつも食事に時間をかけている。
何か考え事をしながら、パンをちぎっては口に運ぶ。時に思い出したかのように飲み物を口に含む。
いつだったか、クラスの女子が孤独な小林を見るに見かね、声を掛けた。
「ねぇ、小林さんもあっちで一緒に食べない?」
「はい」
小林は表情一つ変えることなく席を立った。そして、女子達に混じって、昼食を食べ始めた。
しかし、小林は無表情にパンを口に入れているだけで、周りと打ち解けようとはしなかった。折角の友達ができる機会を自ら逃しているように見えた。
さすがに固まっていた女子達も小林をどう扱えばよいのか、困り果てているようだった。賑やかで楽しい筈の昼食が小林のその態度によって台無しになってしまった。
そんなことがあってか、小林はついに女子からも相手にされなくなってしまった。
人付き合いがそれほど上手くない樹にも友人はいる。
しかし、小林には一人もいない。
(去年のクラスで友人は出来なかったのか? それか同じ出身中学の知り合いはいないのか? 実は転校生なのか?)
そんな風にまで思えていた。
でも、それはあり得なかった。担任からもそんな紹介はないし、本人も学校の勝手は知っているようだった。
それ故に小林由依は何とも不思議な存在だった。
樹はいつしかそんな彼女のことを気に掛けるようになった。
(なんでかな?)
樹の心の中にどこかにほんの少しだけ彼女の気持ちが分かる部分があるような気がしていた。
彼女は感情をひた隠し、平静を保っているが実は心の中ではもがき苦しんでいる。そんな心の不整合が他人に対する冷たい態度となって現れるのではないだろうか、と。
授業が終わった後。教室で小林と別れてからも樹は彼女のことを度々考えた。
(何か彼女の力になってやれることはないか?)