14
「兄弟とかいないの?」
樹はもう大丈夫だと思い、踏み込んだことを聞いてみた。
「姉ならいるわ。双子の姉」
「双子なの?」
樹は質問の答えてくれたことにもその内容にも驚いた。
今まで見ることのなかった小林の表情に学校の小林と目の前の小林はひょっとすると別人ではないのだろうかと思ってしまった。
(どこかで姉妹が入れ替わっているとか。……いや、あり得ないか)
「双子ってことは、やっぱり顔も似てるの?」
「そう、瓜二つ。あなたには見分けがつかないかも」
(やっぱり! 彼女が妹なら、学校にいるのは姉の方だ)
「君は妹?」
あり得ないと思いながらも質問を続けた。
「そうよ」
「じゃ、お姉さんはどこの学校に通っているの?」
「今は行ってないの」
小林は少し答えにくそうに言った。それは高校に進学しなかったということか、それとも中退したという意味なのかわからないが、いずれにせよ、それ以上突っ込んで聞ける雰囲気ではなかった。
二人はしばらく沈黙した。寄せては返す波の音がこの世界を支配していた。それは途切れることのない一定のリズムでとても心地良かった。
樹は小林の歌声のことを考えていた。小林の澄んだ歌声をクラスメートだけで聞くのは勿体ない。学校中に響かせたい、と。とりわけ、彼女を無視する連中に届けるべきだ、と。
彼女の隠れた一面を知れば、きっと誤解を解くだろうし、敵意はなくなるだろう、と。
(何か方法はないだろうか?)
その時、樹はひらめいた。毎年、開かれる学祭。そこでは生徒によるコンサートが開かれる。
樹は思わず立ち上がっていた。
「小林さん!」
小林に強い視線を投げかけた。
「一緒に学祭のコンサートに出場しないか?」
「コンサート?」
「そう!」
「あなたと歌うの?」
小林は少し躊躇いがちに尋ねた。
「いや、俺は無理。音痴だし」
「でも、一緒にって?」
「俺は楽器をやる。そうだな、ギターの演奏だ」
「弾けるの?」
なかなか痛いところを突かれた。
「去年、親父からギターを譲ってもらったんだけど、全然。でも、これを機に弾けるようになればいいだろ?」
小林はじっと樹を見つめ、少しも目を逸らさなかった。彼女は思いがけない提案に心を動かされたようだった。しかし、すぐに表情を曇らせた。
「けど、みんなの前で演奏するんでしょ。大丈夫なの?」
「大丈夫さ。君が歌ってくれるなら俺も頑張って弾けるようにする」
「……分かったわ、一緒に出ましょう」
小林は力強く言ってくれた。