13
目の前に海の家がひっそり並んで建っていた。入り口は木の板で覆われていてまるで大きな積み木のようだった。
小林はその片隅に鞄を置いた。そして靴を脱いで、さらに靴下まで脱ぎ捨てた。
裸足となった白いブラウスの少女はまっすぐ波打ち際まで駆けていった。両足が砂を巻き上げ、足跡が彼女を追う。速く、そして力強く砂を蹴る。
学校生活を無感動に過ごす小林とはまるで別人に思えた。あれは仮の姿でこちらが本当の姿ではないのか、と疑ってしまうほどに。
砂を跳ねていた長い足はついに波打ち際にまで達した。白い少女は初めて海を見た子どものように無心になって波と戯れる。
打ち寄せる波に合わせて身体を動かす。その動きはしなやかで躍動感に溢れていた。
(裸足の……女神)
樹はいつか美術館で見た絵画を連想しながら小林のダンスを見守った。
激しい動きに疲れたのか、しばらくして小林は戻ってきた。もう海を十分堪能したと言わんばかりの満足気な顔だった。
樹の前に来た小林は呼吸が少し乱れていた。白い足は砂で汚れていた。
「ね、こういうのが青春なんでしょ?」
「えっ?」
突然の問いかけに呆気にとられる樹を見て小林は笑った。白い歯が印象的で樹には学校の彼女は別人だと思えて仕方がなかった。
「ううん、何でもない。ただこんな風に一度やってみたかったの」
それは不思議そうに見つめる樹への説明らしかった。
樹はしばらく小林の言葉の意味を考えた。しかし、結局意味は分からなかった。
「すっきりしたわ」
小林は足に残った砂を手で払い落とし、樹の横に腰を下ろした。
「私ね、家族と一緒にこの海に来たのよ。昔」
「へぇ」
「でも、それは青春とは言わないでしょ?」
樹は思わず笑ってしまった。
「でも、今日はあなたと来たから、青春よね?」
しかし、小林は真面目な顔のままそう言った。
(あぁ、そうか)
小林の言いたいことが何となく分かる。学校以外の場所で友達と会うのが楽しいという意味なのだろう。
(そうか、俺を友達扱いしてくれるのか)
樹は途端に心が軽くなった。