11
小林は駅に辿り着き、吸い込まれるように切符の券売機の前で立ち止まった。
(定期を使わないのか。寄り道するつもりか?)
彼女は壁に掲げられた大きな路線図を見上げた。確かな目的地があるようには見えない。左右に何度か頭でを動かしている。
そんなふうにしてから、彼女は切符を買った。尾行する二人も、わざと別の列に並んで切符を買う。樹も二人に続こうとした時、中学生らしき一団が流入し、一気に列が渋滞した。
(しまった。見失う)
樹ははやる気持ちを抑えながら、先を行く彼女らの姿を探す。少し先に三人の後ろ姿を発見し、そのまま三人は順番に改札口に吸い込まれていった。
券売機が空くのを我慢して待つ樹の心だけが焦る。
(まだ行くなよ)
樹は切符を手にすると改札に駆け込んだ。どのホームかと辺りを見回す。一番手前のホームは乗客が多い。この中に紛れているとかなり厄介。
それでも樹は諦めず、小林の姿を探す。そうこうしてるうちに、ベルが鳴り、列車が入ってきた。
(くそっ!)
列車が壁となって、もう誰の姿も見えなくした。一段と焦りが募る。
樹は跨線橋を走った。しかしホームに届く直前に発車のベルが鳴り出した。慌てて階段を降りると確認の取れないまま列車に乗り込むしか方法はない。
(間に合え!)
樹の目の前で無情にも扉が閉じ、列車が動き出した。
(間に合わなかった……)
列車が去ってしまうと、ホームには静寂だけが残された。樹は肩で大きく息をする。
疲れはまるで感じなかった。ただ小林を想う気持ちだけで一杯だった。
(彼女の身に何も起きなければいいけどな)
目の前には新しい視界が開けていて、奥のホームが見渡せた。向こうはローカル線で乗客もまばらだった。
(んっ?)
そこに小林の姿があった。こちらに背を向けて立っている。樹はほっと胸を撫で下ろすと階段へと向かった。
(何とか追いつけたか)
しかし、全ては偶然がもたらした結果だった。ちっとも彼女を守っていることにはならない。樹は己の無力さを感じずにはいられなかった。
列車が来るまでにはまだ少し時間があり、同じホームに降り立つのは目立ち過ぎる。樹は跨線橋の上で列車が来るのをしばらく待った。
(……ん?)
小林から少し離れた場所に二人の女子もいる。
(あいつら……まだいるのかよ)
列車がやって来る頃には、いつの間にかホームは混雑していた。そんな大勢の人々に紛れるように樹も列車に乗り込んだ。
小林は出入口付近に立ち、じっと窓の外を見ている。少し離れた座席に二人の追跡者が腰を下ろしていた。
(どこまで行くつもりなんだ)
この路線は海沿いを走って隣町までつながっている。樹の買った切符では数駅先までしか乗れない。
しかし、以外にも小林は二つ目の小さな駅で下車した。