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 そして、生徒指導主任がこの件を請け合ったことにより、自動的に各クラスに資材関係の申し込みや、それに先立つ出し物の計画案提出を急ぐよう、教師側から一斉に通知が出されることになった。

 正式にそうなったわけじゃないけど、自分が担任しているクラスが万が一遅れでもしたら、生徒指導主任という校長、教頭に次ぐ実力者が認めた期限を破ることになり、教師の立場的には非常にまずい事態になる寸法ってわけだ。





「このアイディアってどこから思いついたんだ? むしろそこに興味があるよ」


 桜庭先輩は真顔で聞いてきた。生徒会費以外の財源を導入するアイディアも、期限を守らせるために生徒指導主任を引き込もうというアイディアも、これまでの生徒会には無かった発想らしい。


「まだ交渉段階で成功してませんけどね」


 それでも、桜庭先輩はそこは関係ないらしく。アイディアの源を知りたがった。


「ま、ただの雑談ですよ。3人で話してて、そういう話で盛り上がって」

「あの梅澤もか」

「はい。と言うより、あの人がメインですよ。最初は校長のところに乗り込むとか無茶言ってましたけど」

「そりゃ無茶だ。事なかれ主義が服着て歩いてるような爺さんだ。生徒指導主任の籔内先生に目をつけたのは正解だと思うよ」

「そうですか?」

「最良の人選だよ。それも梅澤が?」

「はい。俺には生徒会担当しか頭に無かったんですけど、美波さんが自分で行くからこいつがいいって」

「あいつがねぇ」


 桜庭先輩は遠い目をした。上級生でもある桜庭先輩には、色々と美波さんとの事件の記憶や噂話の記憶が積み重なって、感慨深いらしい。


「生徒会なんてのはさ、本気でやる奴が損をするように出来てるんだよ。悲しいことにね。でも、成果を出せば、それが人に認められなくても楽しかったって自己完結できる奴にとってはいい遊び場になると思うんだ」


 自分がそうだから、とは言わなかった。俺たちの渾身のアイディアを容易に理解した上で認める度量といい、物事の捉え方の深さといい、同じ高校生とはとても思えない。


 それを伝えると桜庭先輩は苦笑いを浮かべた。


「いずれ同じことを言われることになりそうだな、苦労人くん」


 苦労人なんて呼ばれた俺だけど、仕事は実に楽しかった。


 なにしろ出来たばかりの可愛い彼女と、その経緯をしっかり見届けた上に祝福してくれる美人の先輩との3人でわいわい仕事が出来る。これで楽しくないわけがない。




 が、好事魔多しとはよく言ったもので、俺には幸運よりも凶事の方がお似合いらしい。



 人の中に埋没し、個性らしい個性も無く、目立たず大人しく生きていればいい存在の俺が、一丁前に彼女なんぞ作ってバカップルを満喫してしまった罰が下ったのかもしれない。



希乃咲穏仙 ( 2022/06/13(月) 23:14 )