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土曜日はバイトに明け暮れる。
雨の中、カッパ着てひたすら肉体労働に励んだおかげで恐ろしい量の汗をかいた。雨なのか汗なのかわからないくらいにズブ濡れ。
家に帰った頃にはヘロヘロにくたびれ、とりあえずシャワーだけ浴びた後、スポーツドリンクを一気に飲み干すと晩飯も食わずに泥の様に寝入ってしまった。
目が醒めると日曜日の早朝5時。起きるのが早いというよりかは、寝たのが早すぎた。
あれだけ寝る前に水分を摂ったのに、起きるとひどく喉が乾いていたが、あえて常温のスポーツドリンクで喉を潤した。
家族はまだ寝ている。両親は俺に比べれば早起きだけど、いくらなんでも日曜に5時起きするほど年を重ねていない。妹はほっとけば昼過ぎまで寝ている。
昨夜は晩飯を食べてないことを思い出し、とりあえず何か食べようと台所へ向かうと俺の分の昨日の晩飯がラップして置いてあった。
時間も時間でレンジを使うのも何となく気が引けて、そのまま食べてみた。
当たり前だけど、さほど美味くはない。別にグルメを気取る訳じゃないから全然構わない。
自分の部屋に戻るとスマホが光っていた。
見るとLINEが3通。
どれも柚菜からだった。1通目が昨日の7時頃。2通目と3通目は連続して9時過ぎに送られていた。
『熱は下がりました。心配かけてごめんなさい。知恵熱だって父に笑われました。本当に熱だけが出て、風邪の症状も何もありませんでした。今、木曜日に書いたメモをまとめています。月曜日には渡せると思います』
1通目、絵文字の一つも入っていない。女子高生の気配すら感じられない、柚菜らしいと言えば柚菜らしい文面はむしろ微笑ましくもあった。
これに気付かなかったってことは、俺が寝たのはその前ということになる。
2通目は少し雰囲気が違っていた。
『木曜日のこと、やっぱり忘れてください』
とあって、その数分後の3通目。
『LINEを送るのも迷惑なことだってわかってます。だから返信はいりません。ごめんなさい。雅毅くんの優しさに甘えて、調子に乗ってました。友達でいいなんて贅沢もいいません。夢を見させてもらっただけで嬉しかったです。ありがとうございました』
いや、何を一人で暴走しちゃってんだ、この娘は。
柚菜が考えが手に取るように解った。つまり、1通目で返信どころか既読にすらならない。それを待っているうちにどんどん悪い方向に考えてしまって、挙句の果ての大暴走。
普通は7時に寝てるなんて想像も付かないから、仕方が無いのかも知れないけど、いくらなんでもこの自己完結はないだろう。
寝てた俺も悪いとはいえ、ちょっと腹が立って、すぐに返信した。
『おはよう。こんな時間にごめん。昨日はバイトで疲れて速攻寝ちゃって、気付かなかったよ。ってか、暴走しすぎ。迷惑だなんて誰が言ったの? わけわかんないこと送ってないで、これに気付いたら即刻電話すること! それまで、全力でスマホ握り締めて待ってるから、早くしないと握り潰して繋がらなくなるかもだからな』
えらく上から言ってる気がしたけど、このくらいしないと連絡してこない気がした。
そして、少しばかりビビってもいた。
このまま柚菜とのことが終わってしまったら、俺はどうなるんだろうと。