32
 視界が暗転した気がした。



 ゴメンナサイ。

 俺、振られてる?


 頭が一気に沸騰しそうになる。朝の低血圧はどこかに吹き飛び、全身が熱を帯びてる。



 だけど、続く柚菜の言葉は俺の乏しい想像力を超えていた。


『……きょ、今日は会えないんです……すごく会いたいけど……これから親戚の結婚式があって、家族みんなで出席しなきゃいけなくて』

「あ……ああ、そ、そうなんだ、そりゃ無理だよな、ごめん」

『……ごめんなさい、先に言っておけばよかったんですけど』


 柚菜の声が本当に涙声になりかけていた。


「いやいや、祝い事じゃしょうがないよ。目一杯お祝いしてきなよ」


 ヘラヘラと笑いつつ、俺は頭の熱がスーッと下がって行くのを感じた。ほっとしたような、裏切られたような、なんか混乱した不思議な気分。



 体を冷ましてから、家に帰れば、起きていたオヤジに何処に行ってたかを問われた。自分との対話と答えると不可解な顔をされつつ、俺はリビングの椅子にへたりこんだ。


 もう一日分の精気を使い果たしたような気がしていた。



 すげー空回り、アホみてー。

 気が抜けて、体の力も抜けて、だらっとしていた。


 だから、不意打ちのバイブで心臓が止まるくらい驚いた。


 柚菜か!


 慌ててポケットからスマホを出して、画面を見る。


【梅澤美波】



「は?」


 考える余裕もなく、指をスライドさせ、耳に当てる。


「はい?」

『あれ? なんで起きてんの?』


 朝っぱらから喧嘩売ってるのか、この人は。



■筆者メッセージ
前回、前々回と少し長かったせいか、今回が短めになってしまった。ので、後でもう1話更新しよいか。



ぱんさん

ありがとうございます。まさか、短編の方まで読んでいただけるとは……嬉しいです。短編は短編で息抜きがてら書いてますので、ちょこちょこ覗いてやって下さい。

各話、終わり方。所謂引きにはそれとなく気を着けてます。ただ、今回は配分ミスですね。


他の作品共々、今後ともよろしくお願いします。
希乃咲穏仙 ( 2022/03/06(日) 00:14 )