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視界が暗転した気がした。
ゴメンナサイ。
俺、振られてる?
頭が一気に沸騰しそうになる。朝の低血圧はどこかに吹き飛び、全身が熱を帯びてる。
だけど、続く柚菜の言葉は俺の乏しい想像力を超えていた。
『……きょ、今日は会えないんです……すごく会いたいけど……これから親戚の結婚式があって、家族みんなで出席しなきゃいけなくて』
「あ……ああ、そ、そうなんだ、そりゃ無理だよな、ごめん」
『……ごめんなさい、先に言っておけばよかったんですけど』
柚菜の声が本当に涙声になりかけていた。
「いやいや、祝い事じゃしょうがないよ。目一杯お祝いしてきなよ」
ヘラヘラと笑いつつ、俺は頭の熱がスーッと下がって行くのを感じた。ほっとしたような、裏切られたような、なんか混乱した不思議な気分。
体を冷ましてから、家に帰れば、起きていたオヤジに何処に行ってたかを問われた。自分との対話と答えると不可解な顔をされつつ、俺はリビングの椅子にへたりこんだ。
もう一日分の精気を使い果たしたような気がしていた。
すげー空回り、アホみてー。
気が抜けて、体の力も抜けて、だらっとしていた。
だから、不意打ちのバイブで心臓が止まるくらい驚いた。
柚菜か!
慌ててポケットからスマホを出して、画面を見る。
【梅澤美波】
「は?」
考える余裕もなく、指をスライドさせ、耳に当てる。
「はい?」
『あれ? なんで起きてんの?』
朝っぱらから喧嘩売ってるのか、この人は。