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いつもは俺と話していても表情がない柚菜がちょっと固い顔つきで俺を見上げた。
「その打ち合わせ、私も同席していいですか?」
「え……うん、まあ、それはいいけど」
突然の申し出に少々面食らってしまう。
柚菜が自分の意志を伝えてきたのが初めてだった。いや、そもそも俺の目を見て話してきたのも初めてな気がする。
「なんでまた?」
俺が尋ねると柚菜はまた俯いてしまった。よく見ると綺麗な顔と評される柚菜の顔を正面から観察するいい機会だったのに、面食らって動揺しているうちにまた顔が見えなくなってしまった。
柚菜はちょっと言い淀む気配を見せてから、かろうじて聞こえる声でぼそぼそと話し始めた。
「……私も仕事したいんです。与えられた仕事じゃなくて、自分でする仕事が。雅毅くんみたいには出来ないと思うけど、せっかく任せてもらった仕事だから、一人でどんどん進めていける雅毅くんに感心してるだけじゃなくて、私からも仕事に取り組みたいなって思って」
今までの柚菜の会話を全部合わせても足りないんじゃないかってくらいの長い言葉を終えると、柚菜はファイルを抱きしめるようにして大きく息を吐いた。
「そりゃすごいや」
俺は間抜けな返事をした。わざわざこんなつまらない仕事を買ってまでしようという人間がいるとは思わなかったし、柚菜がそれを言い出すのはさらに意外だった。しかも、こんなに長くにだ。
「一緒に来るのは構わないよ。2人の方がメモし忘れとか少なくて済むだろうし」
うんと柚菜は頷いている。
「放課後、在庫の表とかまとめたら生徒会室行くからさ、また教室に来てよ」
もう一つ柚菜がさっきより力強く頷く。
「表のコピーは渡すから、メモ係してて。途中で職員室よってコピーしてもらってから行こうか」
更に頷く柚菜。視線も合わないし、俺に見えるのは柚菜のつむじだけ。どうやらもう喋る気はないらしい。
「んじゃ、そういうことでよろしく」
そう言うと、それが切り上げのサインだと思ったのか、柚菜は最後の頷きを返すと、つつっと二歩後ろに下がって、くるっと踵を返し、てくてくと歩き出してしまった。
俺は置いてけぼり。
去って行く柚菜の背中は小さくて、どこか急ぎ足だった。
「会うのも嫌なら来なきゃいいのにな」
俺はやけに僻みっぽくそれを見送っていた。