俺とあの娘と先輩の物語
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 それにしても、これは一体誰なんだろう。

 美波さんの噂を聞くと、行事の担当を真面目に務めるようなイメージはどうしたって浮かんではこない。

 真面目が服を着ている様な柚菜ならともかく。学校のスターだなんて言われてる様な人がまさか……ね。

 人間って直接話したりしてみないとわかんないもんだな、ってのを改めて思わされた。

 それは置いといて、だ。


 このミーティング、俺のすぐ後に柚菜も来たから、残る一人の到着待ちになった。

 気位が高くて庶民なんかとは話もしないんじゃないかと思っていた美波さんは、地味の一言で片付けられがちな柚菜とも、ごく当たり前のように言葉を交わしていた。


 これまた意外だったのは、柚菜も自然に美波さんと話していた。

 俺と話す時はせいぜい単語が3つも続くかどうかってのに、美波さん相手だと、おとなしい印象の範囲内だけど、けっこう楽しそうに話している。



 なにかしたかな俺。

 地味に凹むよね。



 二人の会話に加わるのもなんか気が引けた、というより、女同士の会話に入れるほど女慣れしていなけりゃ、度胸も無いヘタレくんの俺は昼休みに生徒会の副会長や会計係から仕入れた情報を書きなぐったメモをまとめ始めた。

 何かあるとすぐ仕事に逃げ込むのが男の悪い癖だ、とかいうセリフを思い出す。


 サラリーマンかよ、俺。

 セルフツッコミをしながら仕事をしていると、時間はあっという間に過ぎていく。

 気がつくと30分以上経っていたらしい。

 いつの間にか化学室は静かになっていた。

 メモをまとめ終わって顔を上げると、美波さんと柚菜が俺を見ていた。


「……?」


 なんでしょう、と首をかしげると、二人も一緒に首をかしげた。やばい、かわいい。などと思ってると、美波さんが口を開いた。


「あいつサボりっぽいし、おなかも減ってきたし、早く帰りたいわけ。そろそろミーティング始めない?」


 そういえば来てないな、もう一人の先輩。初日からばっくれとかいい度胸だな。


「そうですね。んじゃ、始めましょうか」


 俺がそう言うと、二人とも姿勢を正した。柚菜はきちんと座り直し、俺の向かい側の席で背を伸ばす。眼鏡の奥で目が、きりっとしていた。

 美波さんは足を組んだまま腕だけをほどいて、左腕を机に置いて斜めに座っている。この人にしてみれば姿勢が正されている方なのだろう。そう思い込むことにした。





 ミーティング自体は1時間もかからなかった。やるべきことはまとめてたし、手順はもう頭にあった。後はそれを実際にどう進めて行くかの相談で、生徒会作成のプリントや俺がまとめたメモに書き込みながら、3人で淡々と進めていった。


 これが楽しかった。

 だってそうだろ?

 タイプは違うけど間違いなく美形の女子二人を相手に、1時間も一緒に仕事ができたら、誰だって最高に楽しいだろ?

 ほんと、楽しいさ。

 もう人生にこんな機会は訪れないかもしれない、とすら思えたね。



 相変わらず柚菜は俺と目を合わせないし、美波さんは高嶺の花だし、二人とどうなりたいとか思うわけじゃないけど、女の子たちと、同じ目的に向かって仕事をするというのは、人間関係がこじれたりしていなければ、男にとっちゃ楽しいに決まっている。





 まず始めの仕事は備品のチェック。これは明日に回すことにして、この日は帰ることにした。時間的に出来ないことはなかったけれど、ガテン系の俺の体力を基準に判断すべきじゃない。

 で、帰ろうとしたわけだけど、俺は今日のこととこれからの計画を報告しに、生徒会室に行かなきゃいけない。

 一人で行こうとしたら、『んな寂しいこというなよ、付き合うって』と強引に美波さんが付いてきた。

 柚菜もなんとなく流れで、という顔で付いてくる。実際、彼女の場合は美波さんに乗せられているだけっぽい。

 これはあまり嬉しい事態じゃなかった。

 なぜかって。

 食欲の分野の下心が見え見えだから。


 俺がバイトしていることはバレてる。家が多少貧乏でも、俺自身は高校生にしちゃ小金持ちだってことは二人とも知っている。そして美波さんはおなかが減っている。


 絶対、たかる気だ。

 それくらいはわかる。

 でなきゃあの人がわざわざ付いてくるなんて言わない。





 そして、生徒会室に向かう途中で美波さんが立ち止まった。



希乃咲穏仙 ( 2021/11/21(日) 12:35 )