俺とあの娘と先輩の物語 - Prolog
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 俺、佐藤雅毅は高校入学と同時にバイトを始めた。

 バイト先はオヤジのつてで知り合った、同じ高校のOBが勤める会社。土木作業員、いわゆるガテン系ってやつだ。

 中学を出たばっかの貧弱小僧でも、現場にはこまごました作業も多く、手先が器用な俺は意外と重宝がられた。作業員はじいさんが多いからか、若いってだけで重宝されてたのかもしれない。道具の使い方とか、作業の手順とか、じいさんたちに比べれば全然覚えるの早かった。

 そんな訳で、夏休みになる頃には体もかなり鍛えられてた。





 バイトの目的はパソコン。昔から憧れてたけど、両親は買ってくれない。

 欲しけりゃ働いて買え、と中学生の俺にも本気で言ってのける両親。

 実際、パソコンを買う金なんか無かっただろうし、本気で欲しい物があったら働いて買わないといけないという覚悟はガキの頃からあった。





 入学早々、オヤジが緊急工事で土日でも現場がある会社で、知り合いが人手を欲しがってるというネタを仕入れてきた。俺は迷わずその知り合いという人に連絡を入れてもらった。

 バイトは体力的にはかなりきつかったけど楽しかった。バイト先のOBさんにも可愛がられてたし。

 クラス屈指の貧弱くんだった俺も中3の頃から伸び始めた身長に、バイトの肉体労働で筋肉が追いついて行く感じで、ひょろかった体が少しずつがっしりしていくのがわかって、うれしくて筋トレまで始めたりした。

 小児喘息持ちだったし、体を鍛えるとかいう発想がそもそも無かった。





 色白でひょろいから『はんぺんの親玉』なんて言われてた俺が、いつの間にか現場焼けに薄く筋肉が付いた体になった夏休み近く、ついに念願のパソコンを購入した。

 デスクトップ型の安いモデルだけど、すげーうれしかった。

 両親をひたすら口説いて光回線を導入させ、PC禁止令を出すぞって脅されるほど、毎日ネットの海を泳いでた。ま、健全な男子高校生らしくエロサイト巡回もあったわけだが。

 現場とPCの前とベッドの中で一日が終わるような微妙に寂しい夏休みを終えると、俺はガテン系ネットオタクという、なんだかよくわからないカテゴリーに入っていた。





 バイト先は、じいさんも多いけれど、なにせ田舎なもんで、ヤンチャな人も多かった。元ヤンの人も現役バリバリな人もいた。

 バイトを紹介してくれたOBの木嶋さんも元はかなりヤンチャで、俺が入学した頃でも有名人だった。そんなにレベルの高い高校じゃないけど、周り見たら不良ばっかって程でもないから、木嶋さんクラスのヤンキーはかなり珍しかったらしい。

 俺が知ってるのは2児の子煩悩パパで、いい人だったからにわかには信じられなかった。

 オヤジは別にヤンキーでもなんでもないけど、木嶋さんは過去にオヤジと同じ会社に勤めていて、めちゃくちゃ世話になってたらしい。確かに俺が中学の頃も、よく家に麻雀しに来てたし、仲は良かったんだろう。で、そんな木嶋さんはなぜかオヤジを尊敬していて、それもあってか、俺のことも可愛がってくれてた。

 それがなぜか高校のヤンキーたちにも知られるようになっていて、『木嶋さんの舎弟』みたいな捉え方をされてたらしく、後で聞いてびびった。



希乃咲穏仙 ( 2021/10/24(日) 01:20 )