覗見
保乃は手際良く5人分の食事を用意した。
「たった3日で……半分の人数になっちゃいましたね」
用意された食事の数を数えた原口が誰とも無しに呟いた。
「ふん……。何処に隠れているのかは知らんがいい気味だ。そのまま飢え死んでしまえばいい!」
廣田は吠えながらも配られた料理に手を付ける。
「貴方馬鹿なの? 2、3日食べなくたって人は餓死なんてしないわよ。良くそんなので議員に立候補なんて出来たわね」
「なんだと!」
守屋の一言で廣田が椅子から立ち上がり叫んだ。
「なに? 本当の事を言っただけじゃない。ね? 璃子ちゃん?」
「え? あ、いや……私は……」
廣田は俺のことまで睨んで来る。
「おやめ下さい皆様。さあ、せっかくのお料理が冷めてしまいます」
熱々のステーキを用意した保乃は皆の前に皿を配り始めた。
「う……」
肉の塊を見た瞬間、口を押さえながら原口は立ち上がりドアの外へと走って行ってしまう。
きっと肉を見て思い出したのだろう。
無残な死に様の理佐や里奈の姿を。
今でもまだ廣田の部屋の前には里奈が無残な姿のまま放置されている。
明日までにはあの遺体を何処かに移動させなければ洋館中に死臭が漂ってしまう。
理佐の遺体は浴室にそのまま放置し、扉を厳重に閉じてあるだけだが。
「ガキが……。あんな死体を見たくらいで吐き気など」
廣田は原口の背を目で追いながら捨て台詞を吐く。
ここに来たばかりの時は良き先輩後輩として談笑していたと言うのに随分と態度が変わったものだ。
保乃が原口の様子を見に行こうとしたので、俺は目で合図を送る。
「あの、私が様子を見に行きます。皆さんは先にお食事を続けていて下さい」
そう言い椅子から立ち上がった俺は原口の後を追った。
原口は何処に行ったのだろうか。
洋館を出た俺は徐々に日が傾いて行く空を眺めながらも原口を探し歩いた。
(いた……)
原口は洋館を西に少し行った林の中で蹲りながら胃の中の物を吐き出していた。
「原―――――」
声を掛けようとした瞬間、俺はまたあの頭痛と眩暈に襲われる。
(ぐっ……! こんな時にまた)
徐々に視界が歪む。
俺はすぐに常備しておいた鎮痛剤を水なしで口に放り込み、飲み込む。
効き目が出て来るまで少し時間が掛かるだろう。
俺はこめかみを押さえながら原口に一歩、また一歩と近付こうとする。
「―――――!」
来た。
またこのデジャヴか。
何なのだ、一体これは?
俺の脳裏にまた少女が映る。
今までと同じ様に何かに怯えている。
今度は別の少女。
前回と前々回のデジャヴに出て来た少女と全く違う容姿の少女だった。
首を絞められている。
何故?
何故、彼女は首を絞められている?
脳裏に浮かぶ少女は涙と涎をたらしながら手足をバタつかせもがく。
何故、俺はこの少女を助けてあげない?
きっとこれはクローゼットか何処かに隠れていて、少女が殺される姿を覗いている光景なのだろう。
恐怖で動けないのだろうか。
そして、やがて少女は動きを止める。
スカートからは黄色い液体が滴り落ちていた。
少女はそのまま落ち葉の上に寝かされる。
ここは……林の中か?
彼女は何処かの林で誰かに殺された。
ならば、俺は一体何処からこの光景を覗いている?
そして少女を殺害した犯人は、鞄からノコギリの様な物を取り出す。
おい……それで……一体何をする気だ?
犯人は少女の服を全て脱がし、ノコギリの刃を左腕にあてがう。
止めろ……お前は一体……なんでこんなに酷い事を?
犯人は一切の躊躇も無く、嫌な音を上げながら何度も、何度もノコギリを引いた。