捜索
「どこだ! 何処に隠れた! 薄汚い殺人犯どもめ!」
解放され、容疑が晴れた事に安堵したのか廣田は各部屋を回りながら吠えた。
「本当に……あの二人……?」
廣田の少し後ろを原口がモップを片手に震えている。
「あんた男でしょ! もっとしっかり前に出なさいよ!」
後ろから守屋にどつかれ、原口は意気消沈気味に小さくなる。
「すみません、原口様。男の方が少ないものでして……」
後ろに俺と一緒にいる保乃が原口に労わりの声を掛ける。
「あ、いや、大丈夫です。ぼ、僕だって男ですから……」
原口は何故か保乃の一言でやる気を見せた。
(草食系男子ってやつか)
そんな原口の様子にほくそ笑む。
「くそ、どこに隠れてやがる! 2日も閉じ込めやがって! ふざけるのも大概にしろよ犯罪者どもめ!」
相手は男2人。
対するこちらは男2人と女が3人。
数で上回っている事での強気の発言なのだろう。
いかにも政治家らしいその態度に、今後の未来を託してみても良いかもな、と苦笑いを隠す。
ふと足元に目をやる。
廣田は男物の大きな革靴を履いている。
足は大きい方なのだろう。
隣の守屋はかなり足が小さい。
踵の低いヒールを履いているが、多分今の俺でさえ足が入らないほどの小ささだ。
震えながらモップを持つ原口の足元にそれとなく視線を落とす。
原口は特に大きくも無く小さくも無いサイズに見える。
特徴の無い足と言った方が良いだろうか。
俺はあの日、犯人の履いていた特徴的なシューズと足の大きさを思い出そうとする。
しかし、特にこれといった特徴を思い出せなかった。
ピンと来た。
『シューズの柄ばかりが目立ってしまい、足の大きさについては特徴が無く、全く思い出せない』
それはつまり。
特徴の無い足の大きさをしている原口浩平があの時の犯人の足に一番近い、という事だ。
そして、その後くまなく洋館の2階、1階、庭、そして森の遺体を保管してある冷氷庫。
ありとあらゆる場所を皆で捜索したが、隆司も信太郎も見付からなかった。
「まるで幽霊ね……」
煙草に火を点け守屋が呟いた。
「へ、変な事言わないで下さいよ……守屋さん」
震えながら原口が守屋に訴える。
「おい、管理人! この湖畔からは本当に外には出られないんだろうな!」
廣田がまた吠える。
「はい。3日後に到着する予定の客船以外は、この湖畔からは外に脱出する方法は御座いません」
楕円形の湖畔の周りは湖しか見えない。
「まさか……泳いで逃げたって事はないか?」
原口が遠くを見やるように言う。
「あんたねぇ。私達が船でどれくらいの時間掛けてここまで来たと思ってるのよ」
「ですよね……」
守屋に言い包められ原口は肩を落とした。
「とりあえず、戻りましょうか。ここに居ても仕方の無い事ですし」
俺の提案に皆が賛同した。
「まだ日は高いですがそろそろ夕方になります。少し早いですが、お食事の用意を致しましょう」
俺達は保乃を先頭に洋館へと戻る事にした。