記憶
ふう、とため息を吐きソファへと深く座った。
少し頭痛がする。
肩もだいぶ凝っている。
(緊張していたのか……無理も無いな……)
俺は肩の凝りをほぐしながら、そのままソファに横になった。
そして開いている方の手を上空に翳す。
理佐を殺した手。
眼球を刺した時の感覚。
脳髄を抉った感覚。
つい数時間前、俺はナイフで理佐を刺し殺した。
(ん?)
何かデジャヴのような物が脳裏を過った。
(……なんだ……?)
俺はこめかみを押さえる。
先程よりも頭痛が増している気がする。
(こいつ、誰だ……?)
何かが脳裏に映る。
怯えている?
何に怯えていると言うのだろうか?
(ガキ……?)
少女が怯えている。
あれは……関有美子なのだろうか?
有美子の記憶が戻って来ているのか?
割れる様な頭痛に耐え、こめかみを押さえながら薬箱を探す。
その間も脳裏には怯えた少女がいる。
確か常備薬があったはずだ。
部屋の奥にあるクローゼットを開けると上段に薬箱を見付けた俺は中を漁る。
そして、鎮痛剤を飲み、ベッドへと横になった。
(……少し休むか……流石に疲れが出て来たんだろう)
少女はもう俺の脳裏から消え、頭の痛みも治まっていた。
もしかしたら、何かの拍子で関有美子の記憶が戻って来たのかも知れない。
しかし、もし記憶が戻ったらどうなるのだろう。
俺の記憶は?
有美子の記憶と混ざってしまうのか?
それとも、報復が済めば完全に記憶が関有美子の物とすり替わってしまうのだろうか?
もしそうならば、それは俺の第二の人生と言えるのだろうか?
答えは返って来ない。
相変わらず、あの金髪女はあの日以来姿を現さない。
俺はこのまま犯行を続けるべきなのか?
自分自身に疑問を投げかけながら、いつの間にか眠りに落ちていた。