亡骸
「――――――――」
もう動くことのない理佐に対し、俺は何度も眼窩から脳を掻き混ぜてやった。
「――――――――」
俺の服は理佐から飛び出た血液やら髄液やら、そして何故か失禁してしまった理佐の尿やらで汚れてしまっていた。
「――――――――」
なぜだ?
「――――――――」
理佐は俺を殺した真犯人なんだろ?
「――――――――」
なら何故俺は
「――――――――」
あの白い空間に転送されない?
結局、そのまま理佐の遺体の横でシャワーを浴びた俺は理佐の鞄に入っていた着替えを拝借し着替えを済ます。
そして、扉を開け、外に誰もいない事を確認し、踊り場を挟んだ先にある105号室へと足早に向かい、ノックをするとすぐに中から返事が返って来た。
「……保乃……開けて貰えますか?」
俺の声の様子に気付いたのだろう。異変を察知した保乃は俺を部屋へと招き入れた。
「……事情は大体分りました」
アイスコーヒーを用意しながら、保乃は俺の話を聞いてくれた。
顔色一つ変えずに、ただただ頷き、俺の目を見て。
「……ごめんなさい、保乃……。また私、間違えてしまったみたいなの……」
「そうですか……。後は私のほうで何とか致しますので、お嬢様はこのまま誰にも見付からない様に自室へとお戻りになっていていただけますか?」
今後の後始末を保乃は買ってくれた。
だが……。
何故なにも聞かない?
俺が犯人を間違えたとどうやって断定できたのか。
もしかしたら、それも俺の勘違いかも知れないのに。
本当は理佐が犯人で合っているかも知れないのに。
何故、俺が間違えたと言った事に対し、何も言い返さない?
「……間違いは誰にでもあります。ただ、次からは犯行に及ぶ際は、事前に私にお知らせ下さい」
淡々とした口調で保乃が言った。
「……えぇ。次からは必ずそうするわ……。でも、保乃。貴女……どうやって殺害の痕跡を消す気なの?」
後数時間で夕食の時間になる。
その時、理佐がリビングに来なければ誰だって不思議に思うだろう。
「……それは難しいでしょうね。……なので、お嬢様のアリバイを私が証明し……」
「証明し……?」
「この洋館にいるメンバーの誰かが、『森勇作』『渡邊理佐』の両名を殺害した。という事に致しましょう」