確認
「ああ〜! やっぱシャワーは最高だわ〜!」
シャワールームから出たと同時に冷蔵庫を開けカクテルを飲み出す里奈。
(そう言えば…里奈は酒好きだったな)
だからこそ俺と付き合っていた一週間は毎日の様に酒を飲み明かしていた。
「あれれ? 有美子、何をそんなにニヤニヤしているのかな〜? さては何か良い事でもあったでしょう?」
里奈が俺を指刺しながら言い放つ。
(……ニヤニヤしている? 俺が?)
いや、それよりも、里奈の様子の方がよっぽどおかしい。
この部屋に来た時もそうだったし、シャワールームでもそうだった。
そして、今も酒を片手に異常なほどのハイテンションだ。
(……無理にでも明るく振舞っているのだろうか)
(森が死んだから?)
まだ誰も殺されたと気付いていない筈。田村保乃以外は。
俺は里奈の様子を注意深く観察しながら、バスタオルで自身の髪の水分を取る。
「……良い事なんて、これっぽっちも無いわよ……。せっかく皆をお父様が招待したのに……死者が出てしまうなんて……」
これは『関家主催』のパーティー。当然招かれた客共は『関家』から招待されたと思っている事だろう。
「……うん……ま、そうなんだけどさ……。別に有美子が気落ちしたって仕方の無い事だし……」
里奈が俺を慰めようと優しい言葉を掛ける。
「それに、森さんって人もお酒を大量に飲んでたって田村さんも言ってたから。……多分心臓麻痺か何かなんでしょ? 死んじゃった理由って」
森の死因については憶測しか出来ない。
ここに医者はいないのだから当然と言えば当然。
殺した当人である俺が喋らない限り、この6日間は森の死因は不明のままでしかない。
「そう……みたいね。松田さんも気を付けてね? ……その年でお酒の飲みすぎで心臓麻痺なんて、私いやだからね?」
「私は大丈夫だって〜! 普段はそんなに飲まないようにしているし。こういう時に一気に飲んで騒ぎたいから我慢してるんだよ? これでもね〜」
カクテルを飲み干した里奈はご機嫌でそう言い放った。
数時間前の青ざめた表情は何処へやら。
(いつもの里奈に戻った様だな)
「ねえ、これからまた國枝さん達と遊ぶ予定なんだけど、有美子もどう?」
服を着ながら里奈が聞いてくる。
「ううん、そういう気分でも無いし……それにやる事も残ってるから」
「もう〜、また課題? 有美子は根っからの生真面目さんなんだから〜。少しは息抜きとかしないと潰れちゃうよ〜?」
膨れっ面でそう言う里奈をなだめながら、ドアまでエスコートする。
「ふふ……そうかもね。じゃあ、残りの課題が全て終わったら……私も混ぜてもらおうかな?」
そう言い、笑顔で里奈を見送る。
(そう……)
「全ての課題が終わって」
「まだ生きていたら」
新しい人生の門出に盛大にパーティーをしよう。
里奈を見送った俺は冷蔵庫から緑茶を取り出しテーブルに着く。
そしていつも通り、今後の計画をまとめる事にした。
202X/07/22
・殺害した森勇作は犯人では無かった。
・残りの容疑者は7名。この中で一番可能性が高いのは渡邊理佐と考える。
・理佐は森と共犯だったのか? 二人で計画し、あの日俺を殺害したのではないか?
・動機は同じく、部下に論破され逆上、それを愛人(?)である理佐に話し、二人で殺害計画を立てた(?)
・実行犯はあの犯人が履いていた特徴的なシューズから推察しても渡邊理佐である可能性が高い。
・そして森は理佐のアリバイ証言者としての役割と凶器を何処かに隠すことか。
俺はページを捲り更に書き出す。
・田村保乃に俺の計画がばれてしまった。
・彼女は共犯を申し出て来た。しかしまだ俺に隠している事がある模様。
・しかし彼女が共犯者となってくれれば報復成就はグッと近くなる事は確か。
・彼女の共犯の目的は関家に対する恩返しらしい。
・その事実はシャワールームで松田里奈から聴取済み。田村保乃は関家にかなりの恩を感じているらしい。
俺はボールペンを置き、緑茶を一気に飲み干した。
やる事は二つ。
渡邊理佐の犯行を裏付ける物が欲しい。
現時点ではまだ黒と決め付けるのは早い。
だが時間が無い事も確かであるし、どちらにせよ報復が完了しなければ全員殺すつもりなのだ。
だが俺も鬼では無い。
全く無関係な人間を、何の疑いも無く無尽蔵に殺せるほど悪では無いと考えている。
そしてもう一つは田村保乃の役割。
彼女は一体何処まで共犯者として動けるのだろうか?
俺が命令すれば人を殺すことも出来るのか?
それとも証拠を隠滅し、アリバイを証言するだけのサポートに徹するだけの共犯者なのか。
俺はこの二つの事を確かめるため、予備のナイフのベルトを太ももにしっかりと固定し、部屋を出る。