使命
 部屋に戻った俺はポットのお湯で珈琲を作る。



 そして、テーブルに着きいつもの様にメモとボールペンを取り出し思案する。





 全ては計画通り。



 森はあのまま二度と目覚める事は無い。



 そして、それは明日には周知の事実となるのだろう。



 鍵が内側から閉められているのも好都合だ。



 マスターキーは保乃が持っている。



 そして、俺が森の部屋に入ったという事実は誰も知らない。



 俺はボールペンを片手に今までの行動にミスが無かったかどうかのチェックする。







20XX/07/21



・森の部屋に入った所は誰にも見られていない

・使用した薬は二種類。遅効性の猛毒『テトラドトキシン』と即効性の睡眠導入剤『ゾルピデム』

・濁り成分の入っている緑茶に混ぜ、森がそれを飲み干すのを確認済み

・田村保乃が食事を部屋に届けた時点では森はまだ起きていた

・その後、食器を下げに向かった際には部屋には鍵が掛けられ、森は眠ってしまっている様子だった

・『ゾルピデム』の効果が現れるのは約30分前後。ウイスキーをすでに一瓶空けていた為、多少効果が現れるのが早いと予想


 保乃から食事を受け取った森はさぞ不思議に思っただろう。俺が二人分の食事を持って現れなかったのか。一人では持ち切れずに後からすぐに来ると踏んだのだろうか。


・何気無くリビングでの会話の中で森の話題を振り、それが功を奏してか國枝隆司と津田信太郎もアリバイ証言者としての利用価値が生まれた

・遅効性の猛毒『テトラドトキシン』は数時間から十数時間で効果が現れる。これも森がアルコールを大量摂取している事からも全身麻痺症状がピークになるのは早くて5時間ほどだろうか。森の部屋の前でいびきが聞こえていた事から、早くても死亡時間は深夜から明け方2時くらいだろう。明日の朝食の時間までには確実に死んでいると予想出来る









 ボールペンを置き、珈琲を啜る。



 そして、思案に耽る。





 森が『犯人』かどうかは、多分それは奴が『死んだ瞬間』に分るのだろう。



 犯人への『報復』が済んだ瞬間に、この『ゲーム』はクリアとなる。



 俺の予想では、あの真っ白な空間に俺の意識だか身体ごとが飛ばされ、金髪女からコンプリートの言葉を受け取るのだろう。



 そして『森を殺害した事実』が消され、俺は正式に『関有美子』として第二の人生を謳歌する事になるのだろう。



 だからこそ、後に鑑識が入ってしまえば誰が森を殺した『犯人』なのかがすぐに判明してしまう方法を用い殺害をしている。



 回りくどく二種類もの薬品を用い殺害したのは『警察の目を欺く事』では無く、この洋館にいる素人共を『一時的に欺く為』のものでしかない。



 そもそもこの世の中に完全犯罪など存在しないと俺は考えている。



 しかし、今の俺にはそんなものは必要無い。



 ほんの少し、俺の報復が完了するまで、他者にばれなければそれで良い。



 今回の『措置』は『森が犯人では無かった時の為の措置』でしか無い。



 間違えてしまったのならば次のターゲットをまた探さねばならないのだから。





 俺の報復は―――。







 ―――犯人を殺害するまで止める事の出来ない『殺人者』としての『使命』なのだから。




希乃咲穏仙 ( 2021/08/31(火) 01:41 )