会議
20XX/07/10/21:20




「ですので、完成まではもうしばらく……」



 俺は淡々と説明する。



「『もうしばらく』だと……? 黒崎! これで何度目か分ってるのか!」



 部長の森勇作が机を叩き立ち上がる。



「部長。前回と前々回の延期は我々の責任ではありませんよ。あれは下請けの企業が……」


「言い訳はいい! これはうちの社運が掛かった一大プロジェクトなんだ! そう何度も何度も延期が出来るものか!」


 俺の言葉を遮り、森が声を荒げる。他の会議のメンバーは事の顛末を見守る側に立ち、静観の姿勢を崩さない。



(だからこいつ等は信用ならない)



「……先程説明済みの内容なのですが、もう一度ご説明致します。今回の『延期』は過去二回の下請け変更による皺寄せが最大の原因である事は……」



「そういう答えを求めているんじゃない! 『何故間に合わなかったのか』『間に合わせる気が本当にあったのか』『他に間に合わせるだけの提案が出なかったのか』を聞いているのだ!」





 静まり返る会議室。




 俺『黒崎健吾』と部長『森勇作』の白熱した議論は今に始まった事では無い。



 今までにも何度かこういった衝突はあったが、今回ほど森が噛み付いてきた事は今までには無かった。



 当然それには『訳』がある。



 そんな静寂を破り俺は喋り出す。



「部長。お気持ちは分りますが、今回の延期の決定は当然、俺一人で決めた事ではありません。これだけ大きなプロジェクトです。多大な宣伝費、協力企業からの出資金、様々な所から『金』が出ている事も事実です」



 俺は興奮する部長を宥める様な口調で話す。



 そして未だ沈黙を続けているほかの会議のメンバー一人一人の目を見ながら先を続ける。



「だからこその延期決定なのだと、俺自身感じましたし、悔しい思いは俺も同じです。今回のプロジェクトは『絶対に失敗の出来ないプロジェクト』です。見付かったイレギュラーはほんの小さな些細な物かも知れません。ですが……」



 その先を言おうとした俺に森はまた議論を被せて怒鳴り出す。



「そのイレギュラーとやらはお前が発見し、俺を通さずに上に報告した内容だろう! 何故直属の上司である俺を通さなかった? お前は何が問題だったのかを全く理解していないぞ!」



(……キリが無いな)



 俺は顔を真っ赤にしながら叫んでいる森にトドメを刺す事にした。



「仕方ありません。本当は会議の場でこんな事を言いたくは無かったのですが……」



 俺は一呼吸置き、森に死刑宣告をする。



「……今回の『イレギュラー発見』について、『部長に報告するな』という指示が上から直接俺に送られて来ました」



「なっ……!」



 絶句する森。



「勿論、最初に部長を通さずに上に報告した俺にも責任はあります。しかし、先に上に指示を仰ぎ、その後に部長に報告するつもりでした。……でも上から釘を刺されました。『森部長は絶対に反対する。そうなれば彼を納得させるための時間が必要になる。ただでさえ延期を2回も繰り返して時間の無い中、彼一人を説得する為の時間など企業として取る事は出来ない。ここは独りよがりの通じる世界では無い。営利の最大化を狙った営利目的の団体なのだ』………だそうです」



 俺の言葉を聞き、森は崩れ落ちるように椅子に座った。



 会議室の空気が更に重苦しくなる。



「……他の方は意見がおありでしょうか? 無ければ会議を終了したいと思います。お配りした資料は今後………」



 俺が会議閉会の言葉を喋る中、森勇作は力が抜けた様に視線を空へと仰がせていた。





希乃咲穏仙 ( 2021/07/28(水) 00:22 )