部屋割
部屋の扉を開ける。
「ふぅ……肩凝るぜ」
俺は内鍵を掛け豪勢なソファに横たわる。
「船での挨拶回りは余計だったな……。里奈の奴……張り切りやがって」
シャツのボタンを一番下まで開ける。
この洋館も非常に洋風で、涼しい風が吹き込む作りにはなってはいるが、今は夏真っ盛りの季節。
ここまで歩いて来ただけでかなり汗ばみ服がベタベタと気持ちが悪い。
「女ってのはホント大変だよなぁ……ブラなんて付けられたもんじゃ無いぞ……全く……」
ようやくここ最近ブラジャーを着けるのに抵抗が無くなって来たというのに、この暑さでは外してTシャツ一枚で過ごしたい所だがそうも行かないのが痛い所だ。
俺は室内に完備されている旧式の冷蔵庫を開ける。
中にはビールやらウイスキー、それにカクテル類などの酒類。
それにスポーツドリンクやら炭酸飲料やら、様々な種類の飲み物がぎっしりと詰まっていた。
俺はスポーツドリンクを取り出しそのまま奥のテーブルに着く。
そして、ポーチからメモ帳を取り出し一番最初のページを開く。
そこには既に決めておいた10名の部屋割りが書かれていた。
【1F】
101号室 空き
102号室 守屋茜
103号室 渡邊理佐
105号室 田村保乃
【2F】
201号室 松田里奈
202号室 松平璃子(関有美子)
203号室 空き
205号室 原口浩平
206号室 國枝隆司
207号室 津田信太郎
208号室 森勇作
209号室 廣田大輔
一階は4部屋。
そして大きなリビングとキッチンルーム、それにビリヤードやダーツが出来る遊戯室と、それらに加えてちょっとしたバーがなんかもある。
出入り口は正面の大きな扉、それにキッチンルームの裏口、そしてバーの奥にある扉の3箇所。
保乃は他二名の女子と離れた105号室。
キッチンルームに一番近く、また管理人としての職務もある保乃にはここが一番動きやすい部屋だろうと割り当てた。
そして2階。
一番奥にある大きめの部屋は議員候補である廣田に譲り。
そして俺、里奈の居る中央階段右側の部屋を女性陣。
左側の部屋を男性陣として分けた。
二階には表に出る為の出入り口は存在しない。
中央階段を下り、一階にある三つの出口のうちのどれかからしか表には出られない。
各部屋には窓が付いているが、全ての窓には鉄格子が嵌め込まれていて外に出る事は不可能。
ほかにも2階には非常に大きなテラスがあり、そこでバーベキューなんかも出来る仕様となっている。
(まずは情報の整理だな……)
俺は思考する。
現時点で8名の容疑者の中で一番容疑が強いのは誰か。
(やはりあのプロジェクトのメンバーか……?)
津田信太郎。
渡邊理佐。
國枝隆司。
この3人と。
(それにあの晩、会議で俺が論破した部長……)
森勇作。
もし、俺への殺人が突発的な事で起きた事件だったとしたら。
一番可能性が高いのは『森勇作』だろう。
俺を尾行し居酒屋の外で待機。
そして泥酔した俺が人気の無い裏路地まで歩み、暗がりに差し掛かった所で。
(これが一番可能性が高そうだな)
俺はメモ帳の白紙の部分を開き、森勇作と記入後、名前の横に『◎』を記入した。
(で、他の3人……動機はまだはっきりとは推察出来ないが、可能性は十分だな)
俺はその下に3人の名前を記載し、その横に『○』を記載する。
(あとは松田里奈……。『あの日』、俺のアパートの近くに居た理由は何だ?)
もちろん偶然という事も考えられる。
しかし、俺が殺されて間もない頃にたまたま俺の住んでいたアパートを通り過ぎるなんて偶然が本当にあるのだろうか。
俺は更にその下に松田里奈と記入し、その横に『△』と記入する。
これで残りは3名。
第一発見者である廣田大輔。
俺が殺された時に同じ居酒屋に居た原口浩平と守屋茜。
この二人は俺があの居酒屋を出る少し前に店を出ている。
そして最後残った俺は会計を済まし店を出たのだ。
もしも先に俺が店を出ていて、その後すぐさまこのどちらかの客が店を出ていたならば『容疑者』が絞れたのだが。
俺は一番下に3人の名前を明記し、その横に『▲』の文字を記入する。
【容疑者8名/容疑ランク】
森勇作/◎
國枝隆司/○
渡邊理佐/○
津田信太郎/○
松田里奈/△
廣田大輔/▲
原口浩平/▲
守屋茜/▲
俺はスポーツドリンクを一気に飲み干す。
「現時点ではやっぱ森勇作か」
そして、俺は当時の会議の記憶を呼び覚ます。