計画
書庫。
すでにここは俺の憩いの場と化している。
父への説得は上手く行った。
理由は適当に思い付きで話した。
ワインをかなり開けているのだ。そんな些細な理由など明日には忘れているだろう。
話を聞いていた保乃にも指示を出している。明日には事態は動き始めるだろう。
(使えるものは何でも使うさ)
父が財閥の会長であるならば尚更だ。使わないほうがおかしい。
俺は保乃の淹れてくれた珈琲を飲みながら、いつものノートとボールペンを取り出し書き込む。
201X/07/13
●容疑者8名全員を『偶然』を装い、とある湖畔にある長年、関家が受け継いできた洋館に招待する。
●父は『やり方』は田村保乃に任せる、と言っていた。今までもこういった影の指示(?)を出していた可能性有?
●湖畔にある洋館は年に一度、関家の催しで使われる以外は全く使われていないらしい。この書庫にあった資料を見る限りではフランスの有名な建築家に依頼し、半世紀近く前に建てられたものだとか。
ボールペンを置き、思考する。
(……保乃がどうやってこの『8名』を洋館に集めるのか興味はある)
しかし、目的はそこでは無い。
この湖畔にある洋館まで『容疑者』を一同に集めて貰えればそれで良い。
洋館までのアクセスは関家の用意した客船しか存在しない。
もしも『犯人』を追い詰めたとしても湖畔の近くにあるのは林と草原のみ。
逃げ出す事は出来ない。
(……そう。これはちょっとした『密室』になるという訳だ……)
俺はこの広い『密室』の中で『犯人』を割り出し『報復』を済ませる。
そうすれば晴れて『関有美子』としてよ第二の人生を寿命まで謳歌する事が出来る。
(……しかし)
『報復』俺の場合は『殺人』を済ませたとしてあの金髪女は、その後『俺が捕まらないような何か画策』でも用意してあるのだろうか。
でなければ『第二の人生を謳歌』などとても無理な話だ。
『殺人犯』としての人生を過ごすだけだろう。
しかし、それらに対する詳細な情報は何処にも無い。
彼女は『30日のタイムリミット』と『報復』という二つのキーワードしか提示していない。
(……しかし人の生き死にの狭間に立ち、『転生』の道を選択肢として与える人物だ。……ならば『報復』を完了させたその後の『第二の人生』も、何かしらの守護線を張ってあるのだろうな……)
そうでなくては『ゲーム』は成立しない。
もしかしたら『報復』を済ませれば、今一度『彼女』の元に飛ぶのかも知れない。
そしてあの『白い空間』で、彼女の口より『コンプリート』の言葉を聞き―――
―――俺は晴れて『本物の』第二の人生を謳歌出来るのかも知れない。