序―1
今日も疲れた。
居酒屋を後にし、裏路地へと出る。
少し飲み過ぎたか?
足が少しふらつく。
それも仕方無いか。
真っ暗な裏路地を千鳥足で進む。
毎日、毎日、上司の愚痴ばかりを聞いているんだ。
ちょっとの酒じゃ、長年鬱積してきたこのストレスは発散出来る筈も無い。
そろそろいつものアレを再開しないと持たないかもな……。
そんな事を考えながらヨロヨロとした足取りで裏路地の曲がり角まで到着した。
弱々しい街灯が照らされたその先に靴が見える。
スニーカーか?
男物とも女物とも見分けがつかない。
最近はこういう靴が流行っているのか……。
そんなことを思いながらふと顔を上げる。
その刹那。
右耳の下辺りに強烈な衝撃を受けコンクリートの壁に叩き付けられた。
何だ?
一体何が起きた?
衝撃を受けた部分に手を宛てる。
掌には真っ赤な血液が付着した。
殴られた?
何か硬い物で?
尻餅を付いたまま見上げる。
街灯の影になって相手の姿が全く見えない。
加えてかなり酒を飲んだせいで目の照準も合わない。
いや、殴られたせいで眩暈を起こしているのか?
思考をよそに、目の前の人物は何かを振り上げる。
ああ、それで殴ったのか……
俺の頭を。
そして、その人物は鈍器を俺に振り下ろす。
何度も。
何度も。
その度、俺の頭蓋骨の砕ける嫌な音が裏路地に響き渡る。
でも、もうこんな時間だ。
居酒屋の店主もこれだけ離れていては気付かないだろう。
ああ、俺は死ぬのか。
『死ぬ』ってこういう事なのか。
酒を浴びる程飲んでおいて正解だったな。
痛みも感じずに死ぬのってありがたいよな。
ああ、眠い。
さあ……もう、寝ようか―――