02
山路とは中3の時、初めて同じクラスになった。その時のクラスは、男女関係なくとても仲が良くて、その中でも特に仲が良いグループに山路もいた。
卒業まで私たちはいつも一緒に遊んでいた。だけど、みんな別々の高校へ進学すると、部活が忙しくなったり、彼氏彼女が出来たりで、どんどん会う仲間が減っていった。
そして高校生になっても、まだ時々会っていたのは、私と山路、それから拓真の3人だけだった。
『花火大会行かね? 3人で』
高三の夏休み。いつもお盆に開かれる隣町の花火大会に山路が行こうと電話で誘ってきた。
『拓真は行くって?』
『行くって』
『じゃあ、私も行こうかな』
『なんだそれ』
顔の見えない山路に向かって、へへっと笑う。すると呆れたような山路の声が聞こえてきた。
『……ほんと拓真のこと、好きだよな、理佐って』
そして、その年の花火大会の日。気合いを入れて、浴衣を着せてもらって、待ち合わせ場所に行った私を待ってくれていたのは拓真だけだった。
山路が1杯目飲み終わる頃、すでに3杯を飲み終えていた私は程よく酔いが回りはじめていた。
私の前に座る山路は、仕事はどうとか、最近誰かに会ったとか、当たり障り無いことばかり聞いてくる。
気を使ってるのかな、なんて、おかわりを頼みながら思った。
だって、私を誘う理由なんて、あのことを聞きたいとしか思えないし。
「山路ぃ……」
「ん?」
4杯目のビールに手をかけながら、私は呟く。
「……聞かないの?」
「なにを?」
「なにって、拓真と別れたの? とか、さ」
そう口にしてから、慌ててジョッキを持ち上げた。
何言ってるんだろう、私は。
そんなこと言いたくもないし、聞かれたくもないはずなのに。
それとも私は語りたいのか?
山路に?
なぜ?
何のために?
わけがわからなくなって、ぐいっとジョッキを傾け、ビールを押し流す。仮に山路が何か言ってきても、酔ったふりをして誤魔化してしまえばいい。
奥の座敷から、大勢の笑い声が響いてきた。私はその声を聞きながら、テーブルの上にジョッキを置く。
心臓がドキドキしている。俯いたまま、目の前の山路に悟られないように小さく息を吐く。
そして私は気がついた。
自分が今、泣き出しそうになっていることに。
「拓真ってさ」
そんな私の耳に、山路の声が聞こえてくる。
「カッコいいやつだったよなぁ」
「……え?」
ジョッキを握ったまま、静かに顔を上げると、酒のせいで少し顔を赤くした山路が笑って言った。
「成績はいいし、バスケ部のキャプテンだったし、何やっても器用にこなす。んで、顔もイケメンだし、女子にも優しいし……完璧じゃん」
ぼうっとしている私に向かって山路が言う。
「理佐も拓真の、そんなとこが好きだったんだろ?」
なんで?
なんで今さらそんなこと言うの?
「俺なんかとは全然違う、拓真のことがさ」
「山路……」
振り絞るように出した声が震えている。私がまた俯くと、賑やかな笑い声に混じって山路の声が聞こえた。
「でも俺は許さねぇ」
ジョッキを握る手にぎゅっと力がこもる。
「いくら完璧だろうが、別の女と浮気するような男、俺は絶対許さない」
その声を聞きながら、もう一度ゆっくりと顔を上げる。私のことを、じっと見つめていた山路と目が合う。
すると山路は私に向かって、中学生の頃とは違う大人びた表情でほんの少しだけ微笑んで見せた。