十八話
「買ってきたよ、お姉ちゃんの好きな生チョコ! 一緒に食べよっ」



 大きなケーキをぶらさげて、アパートに好花がやって来た。

 私が生まれ育った街を出てから、4度目の冬が訪れていた。



「なに、あんたいきなり」

「今日誕生日でしょ? どうせお姉ちゃん、一人寂しくビールでも飲んでるのかなーなんてね」

「悪かったね。一人でビール飲んでて」



 私は膨れっ面のまま、好花が買ってきたケーキを広げる。確かに好花の言うとおり、私は一人寂しくビールを飲んでいた。でもそんなことはどうでもいい。




好花も来たし

一緒に朝まで付き合わせよう





「ねぇ、たまには帰ってきなよ。正月も帰って来なかったし、お父さん寂しがってるよ?」



 好花がケーキを頬張りながら私に言った。



「そうだねぇ。でもバイト休むと生活苦しいからなー」

「そんなにお金ないの? たまに休むぐらい平気でしょ?」

「まあ、ね」



 私はこの街でバイトをしながら気ままに暮らしていた。知らない街の知らない景色は、私を思い出から開放してくれるから楽だ。



「最近どう? 何か変わったことあった?」



 ビールを飲みながら好花に尋ねた。隣の犬が死んだことや、近所に大型スーパーができたことなど、どうでもいいことを一通りしゃべってからこう言った。



「・・・それと、彰くんも引越ししたみたい」



 彰の名前を聞いたのは本当に久しぶりだった。



「この前たまたま、あのアパートの前通ってさ。なんとなく気になって1階のポスト覗いたら、名前がなくなってた。部屋の方も誰も住んでないみたいだったし」

「ふーん。史帆と同棲でも始めたかな?」



 他人事のようにそう言った私に、好花が抗議した。



「お姉ちゃん、悔しくないの? 彰くんはお姉ちゃんのものだったのに!」

「ものとか言わないの、ものとか。彰は彰。誰のものでもないよ?」



 好花は何か言いたげに私を見た後、大きくため息を吐いた。



「お姉ちゃんのそういうクールな考え方、私には全然わかんない。私だったら絶対離さないし、私が記憶を蘇らせるって思うよ」



 好花の言葉に私は笑った。けどそれは、バカにしているわけでもない。



「いいね。好花は素直で気持ちがいい」



 好花は拗ねた様な顔で私を見る。



「でも私はこれでいいの。別に後悔もしてないし」



 私は好花に笑いかける。



「お姉ちゃん。・・・私ね、今度結婚するの」



 好花はじっと私の顔を見つめた後、静かに言った。



「結婚!?」



 思いもよらない言葉に、飲みかけの缶ビールを落としそうになった。



「できちゃったのよね、赤ちゃん」



 好花はそう言って、照れくさそうに自分のお腹を撫でた。



「ホントに!? 相手は?」

「うん。お姉ちゃんも知ってるでしょ。バイトの先輩」

「お母さんとお父さんはなんて?」

「最初はすごく怒ってた。けど、今は結婚式楽しみにしているみたい」

「そっか・・・」



 小さく呟いて好花を見る。



「お姉ちゃん・・・私たちの結婚式に来てくれる?」



 好花は躊躇いがちに顔を上げ、私に言った。



「もちろん。当たり前じゃない」



 そして私はにっこり笑う。



「よかったね。好花。おめでとう」



 私の言葉に好花はやっと微笑んだ。



「ありがとう」



鶉親方 ( 2020/02/25(火) 01:24 )