Mayerling - 2
六話
『今夜、仕事帰りにうちに寄りなよ。何かメシ作っておくから』


 その日の彰の電話の声は、いつもより少し明るかった。でも、私は彰と二人きりになるのが少し怖かった。


「ごめん。今夜は史帆と会う約束しちゃったの」

『また二人で飲み会?』

 
 電話の向こうで彰が笑う。私もファーストフード店のポテトを摘まみながら、小さく笑った。


『じゃあさ、史帆ちゃんも連れてきなよ。うちで飲み会しよ』

「ええー? いいのー?」

『いいよ。俺ヒマだし』


 病院を退院した後、彰は会社に復帰したが、どうしてもその仕事内容と人間関係を思い出すことができず、会社を辞めてしまった。

 私はそれでもいいと思った。無理をしてまで元の仕事を続ける必要はない。彰は遅かれ早かれ父の工務店で働く予定になっていたからだ。



『久美は何か食べたいのある?』


 私の頭に彰のレパートリーが広がる。


 記憶はなくても彰の料理の腕は落ちていなかった。幼い頃の記憶はちゃんと残っているし、たとえ頭で忘れたとしても、体が覚えている彰は私のようにレシピを見なくても、材料を見ただけでパパッとおいしい料理を作れた。



「ビーフシチュー」


 私の口から自然とその言葉が出た。


『シチュー? つまみにならないじゃん。ま、いいけどさ』


 彰がそう言って笑った。


 彰にあの日の記憶はない。私と一緒にパーティをするはずだった、あの夏の始まりの日の記憶は。私は一生忘れられないというのに。





■筆者メッセージ
なんやかんやとごちゃついてますね

あんなばっさりいくものなのでしょうか?



小啄木鳥さん
こきつつきですかね?
日向で書きたいのはあるんですけどね、いかんせん書き途中もありますからね。卒業生だけの作品も書きたいし、意欲はあるけどもな感じです

また、よろしくです
鶉親方 ( 2020/01/26(日) 16:41 )