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まさかの質問に祐樹はあっけにとられた。ミクの目を一点に見つめたまま硬直する。
「あれ? 違うの?」
「あっ......彼氏じゃないです......」
「そうなの? でもさっき真子ちゃんが笑顔で『彼氏連れてきたんだ!』って嬉しそうに言ってたよ」
そんなことを話していたのか。祐樹は頭を回転させ状況を飲み込んだ。真子が自分をそこまで思ってくれていたことが嬉しかった。
「えーと、厳密に言うと違うかな。でも真子はそれくらい大切な存在ではあるけど」
「何その曖昧な感じ。真子ちゃん可愛いんだから素直に付き合いなよ」
ミクが少し怒ったような顔をする。真子を誑かせているように感じたのだろう
「もう直ぐそうなると思うよ。真子のこと好きだし」
「だったらさっさと彼女にしてあげて。真子ちゃんあなたの話してる時すごい楽しそうだったんだ。いつも笑顔は可愛いけど今日は今までで一番可愛いかった気がする。言っとくけど真子ちゃんってめっちゃモテるからね。早くしないとあなたよりイケメンな人に取られちゃうかもよ?」
正直自分は容姿が映える方では無い。だからこそ周りを僻んで生きてきた。そんな自分を勇気付けてくれたのが彼女達でもあった。もし真子がゆりあの元彼のようなチャラチャラした男に取られたら一生後悔するかもしれない。
「うん。わかった。この握手終わったら彼女にするよ」
ミクの目がパッと開き祐樹の握った手を嬉しそうにブラブラ揺らした。
「うわーミクもそんなこと言われたいわぁ。真子ちゃん人気で羨ましい。あのねミクのファンの人達の中でさ真子ちゃんって有名なんだよ。ミクより可愛いって。酷くない??」
「確かに酷いね。でもミクちゃんも凄く可愛いよ?」
「あ、彼女以外に可愛いなんて言っちゃいけないんだ。あなた女ったらしでしょ」
「そんなことないよ」
「いーや絶対そうだ。ミクには分かるもん。ところで名前何て言うの?」
ミクは頬を膨らませるとリスのようだった。
「僕は祐樹だよ」
「祐樹さんね。真子ちゃんの彼氏の祐樹さんって覚えとくから」
「ありがと。また来るね」
時間が来たようでスタッフが終了を祐樹に促した。名残惜しいがミクの手をゆっくり話す。すると手が寒くなった。
「絶対来てよ! あと真子ちゃんのこと幸せにしてあげてね」
ミクは手を振る。それに祐樹も振り返した。出口の方に歩くと真子が待っていてくれた。ニンマリとした笑顔でこちらを見ている。
「ミクりん可愛かったでしょ?」
「うん。やっぱりアイドルは可愛いね。それといつから俺は真子の彼氏になったの?」
「うーん。いつからだろ?」
真子はとぼけるような顔をし右人差し指を顎あたりに置いた。
「まっ、彼女は何人居ても困らないから良いじゃん? 」
「それもそうだね。真子を他の男に取られるのは嫌だし」
「へへへっ、人生初の彼氏ゲット〜〜」
小さくガッツポーズした真子。いつもの明るい笑顔が少しだけ甘く、恋をしている表情に見える。それが自分だけに向けられたものだと思うと心がくすぐられるような気分になった。