09
握手会はすでに始まっておりとても広い会場内は人がごった返していた。男性ばかりかと思いきや女性も多くグループで談笑している姿を見かける。だがカップルで握手会に来ているのはどうやら自分だけの様だ。真子に多少手を引っ張られ人混みを歩いているがその姿が周りに比べて異質に感じてしまい、恥ずかしくなる。
真子に連れられてきたのは中田ミクのレーン前の様だ。沢山の人が並んでいてその奥に本人が居るのだろうか。
アイドルの握手会は1時間半程握手をすると休憩時間に入る。その繰り返しだ。
「はい。先生」
カバンからゴソゴソ取り出したのは握手券だった。1枚ではなく3枚も渡される
「ありがと。ところでこれってどのくらい握手できるの?」
「うーん。3枚なら1分くらいかな。もっと積めば長く喋れるけど」
アイドルとの会話を長く楽しむにはそれだけの握手券が必要。つまりはお金が必要である。だがそのお金が彼女達の人気に繋がり還元される。それを信じてファンはお金を投資する。これが握手会の仕組みだ。自分も朱里や生徒達が居なければアイドルにお金をつぎ込んでいたかもしれない。
真子に続いて列に並んだ。並んでいる人数からして自分達の番まではそれなりにかかりそうだ。
「20分くらいかかるかな?」
「まぁそんくらい。みくりん最近人気出てきて、めっちゃ握手券積む人も居るし。私の知り合いも30枚とか使ってたよ」
「トップオタってやつね。知り合いってことはファンの人達と連絡取り合ってるの」
「うん。ツイッターでやりとりしてる。ほら」
真子からスマホの画面を見せられる。真子のアカウントは中田ミクの画像に装飾が施されたものがプロフィール画像に設定されていた。何人かの人と頻繁にやりとりしているようだ。
「真子のもフォローしていい?」
「別にいいよ。火鍋の奴らにもフォローされてるし」
祐樹もスマホを開くと朱里のアカウントから画像を頼りに真子を探し出す。今時の若者をすべからくSNSをやっている。祐樹自身もやっているが使い道はほぼ生徒達が事件に巻き込まれないよう監視する為であった。ただ朱里や玲奈もそうだが大したことは呟いてない。プライベートなことはグループLINEの方でしか殆ど発信しない。仲良くなってからはそれが顕著になった。
「自撮りとかは載せてないから安心して」
祐樹が言おうとしていたことを真子が先に言った。最近は真子自身も祐樹を恋人のように感じていた。異性なら祐樹にしか見せたくない。そんな思いがいつの間にか生まれていた。
いっその事彼氏にしようかな。どーせ先生しか好きにならないし。レズビアンである自分が男を好きになるとは。彼は運命の人なのかもしれない。真子はじっと祐樹を見つめた。