05
登校時間、祐樹は一年生の教室がある廊下を歩いていた。そうすれば2人のどちらかに会えると思ったからだ。優奈の話によれば2人はあれ以来会っていないらしい。だが休んでいるわけではなく学校には来ているという。
2人の拠点である教室を覗くが、人影は無かった。どこで時間を潰しているかは優奈も知らない。LINEに連絡を入れたところで拒否されるだけと思い、突然話をすることに決めたのだ。
さてどこに居るのだろう。そう思いながら黒いカーテンが窓に張られた教室をぼーっと眺める。心当たりがある場所をしらみ潰しに探していこう。祐樹は教室の扉を閉め廊下を歩き始める。
その時、向かいから誰かが歩いてきた、赤のジャンパーに茶色がかった神は結んであった。すぐに真子だと分かった。真子は耳にイヤホンを挿しスマホを見ている為こちらには気付いては居ない。教室の手前まで来ると真子はふっと顔を上げる。そして初めて祐樹が居ることに気付き『あっ』と声を出した。
「真子さん」
呼びかけると、バツが悪そうな顔をした真子はくるっと後ろを振り向き歩き出そうとした。逃がすまいと祐樹は小走りで真子に近づいた。真子の左手を掴み動きを制した。
「はい、捕まえた」
観念したのか真子はイヤホンを外す。
「......どうせ南那と仲良くしろとか言うんだろ」
「まぁ大体はそういうことです。もうそろそろ寂しくなったかなって」
「......」
真子は口ごもる。どうやら図星のようだ。
「とりあえず教室で話しましょう」
真子の腕を引っ張り教室へ誘う。室内に幾つか散乱していた机と椅子を並べると真子はそれに座った。しかし、ずっと俯いている。顔を見ようともしない。祐樹は真子の正面に座った。
「あれから日が経って少しは落ち着きましたか?」
問いかけるも真子はスマホに目をやり、聞いていないふりをする
「南那さんにも謝るよう説得しますから仲良くしてほしいです」
「謝っても許さねえよ。弟の悪口言ったんだぞ」
「でも南那は本心で言ってないよ。南那だって仲直りしたいってきっと思ってる」
お互いに1歩踏み出すきっかけを祐樹は与えたかった。思春期の彼女たちは意地になってタイミングを失っていることがほとんどでそれがヤンキーとなれば尚更だ。
「......嫌、絶交って決めたから」
言い切りはしたが目は悲しそうだった。プライドが邪魔をしているのだろう。先に譲歩した方が負け。だが2人が疎遠になってしまうのは避けたかった。
「そんなこと言わないで。南那は大事な友達でしょ?」
祐樹は真子の頭に手を伸ばし、何度か撫でた。いつもだったら『なんだよ』と軽く抵抗されるが、今回は素直に受け入れていた。人肌が恋しいのだろう。そのまま耳の辺りを触り頬を柔らかさを確かめる。南那に叩かれた箇所の腫れはひいていたが多少乾燥していた。