04
真子がぼそぼそとしか喋らないので現場を目撃した優奈が代わりに証言した。それにより大体の出来事を祐樹は把握することが出来た。最初はいつもの痴話喧嘩だったようだ。真子が事の発端らしい。
「こいつら元々2人で旅行に行くつもりだったらしいんだ。それが行けなくなった事でゾンビが怒った」
「ふうん。行けなくなった理由は何ですか?」
「......弟に一緒に出かけないかって誘われたんだよ。でもその日が南那と旅行行く日に被ってたんだ」
真子は頬を摩りながら小さい声で話した。祐樹は真子に弟が居たことを思い出す。前回も弟をきっかけに揉め事が起こっていた。トラブルメーカーに近いな。とは思ったものの口には出さなかった。
「それで、南那さんに断りを入れたら怒ってしまったわけか」
年頃で反抗期の弟を溺愛している真子にとって一緒に出かけるだけでも嬉しい出来事だった。南那との旅行はいつでも行ける。だが弟と出かける機会なんて今回断ったらいつになるか分からない。そう思うと優先順位はすぐに決まった。
理解してくれると思っていた。しかし南那は真子が思っている以上に旅行を楽しみにしていたようだ。
『私より弟の方が大事なの?!』説明したが南那がヒステリーになっていくのがはっきり分かった。元々南那はわがままなところがあり、それが可愛いところでもあったが今回は話を理解してくれずイライラし始めた。
極め付けは『あんなだらしない男の何が良いんだか』と弟の悪口を言ったことだ。その言葉に真子は堪忍袋の緒が切れて反射的に南那の頬を引っ叩いた。一瞬驚いた南那、しかしすぐに南那の平手が真子の頬を引っ叩き、そこから取っ組み合いの喧嘩が始まったのだ。
おそらく南那は本心から弟の悪口を言ったわけではなく、カッとなって言ってしまったのだろう。それでも真子を傷つけてしまったのは確か。真子も南那を傷つけている。お互いが悪い。
「真子さん、とりあえず南那さんに謝ろう? ね?」
「は!? なんで謝んなくちゃいけねーんだよ! あいつが悪いんだろ」
「勿論、南那さんも悪いよ。でも南那さんは謝ることとか苦手な子でしょ? 真子さんの方がお姉さんだし、率先して謝れば南那さんも分かってくれるよ」
祐樹の言葉に真子は黙った。南那より真子の方が立場が上だということを認識させる。祐樹から見れば2人共同じくらいの子供にしか見えていないがここはまだ落ち着きのある真子に関係修復を委ねた。恋人同士でもあるが2人は姉妹のような関係でもあった。お互いが欠けたら成り立たないのだ。
「......嫌だ! あいつとは絶交するって決めたんだよ!」
「おい、カミソリ!」
祐樹の助言も虚しく真子は走り出し教室から出て行ってしまった。
「先生......」
「大丈夫。2人共、ずっと一緒に育ってきたんだから今は意地を張っててもそのうち寂しくなると思う。だからそこで手助けしてやれば元に戻れる」
優奈は終始不安そうな顔だった。
「まぁまぁ。とりあえず安心しなよ。先生は女の子に対してだったらどんな手を使ってでも仲良くさせるから」
「どんな手を使ってでもって何?」
玲奈が横から茶々を入れる。『手』というのはセックスを指しているのだとすぐに分かった。
「さぁねー? まぁ冗談は置いといて、ここは先生に任せなよ。頼りになるからさ」
玲奈が祐樹の肩を叩き優奈に対して笑顔を見せる。
「......先生、あいつらのこと頼むな」
クッと祐樹を見上げた優奈の目は少しだけ潤んでいた