08
買ったチケットを手に握りしめ嬉しそうに眺める李奈。自分の働いた給料の大切さを身に染みて感じているのだろう。そんな自分も初めて給料を貰ったのはまだ1年前ということに祐樹は気付いた。自分はお金の大切さに気付いたことはあっただろうか。朱里や杏奈に何でも買い与えているわけじゃない。まず彼女たちは何もねだらない。朱里曰く『朱里が欲しいのは先生からの愛情』だと言う。そんな可愛いことを言う彼女が居て祐樹は幸せだった。今日もケーキを買って帰ろう。映画館のフードメニューも何かお土産に買っていこかな。そう思った祐樹はフードショップの長蛇の列を眺めた。
「李奈さんは何か食べます?」
「そうだな〜やっぱポップコーン食べたい!」
李奈は看板に描かれたポップコーンの写真にビシッと指をさした。そういえば何故映画といえばポップコーンなのだろう。
「分かりました。じゃあ今度こそ奢りますよ」
「だから良いってば。自分で買うし」
「いやいや男は奢りたいものなんですよ」
「ふうん、金払うのが楽しみって男は変な生き物だな」
李奈は腕を組んで首をかしげる仕草をした。
「男ってのはそういうもんなんですよ。今回だけにするんでお願いします。何でも頼んで良いんで」
「何でも良いのか?! よし、斉藤に奢らせてやるぞ」
李奈の言い回しに違和感を覚えたものの、満面の笑顔を見せる李奈が可愛かった。自分が奢りたい理由は気に入られたいからではなく、彼女達の笑顔が見たいから。それに尽きる。
祐樹はお金の大切さを大切な彼女達に使うことでその価値を見出だしていた。
長蛇の列に並んだが、サクサク列が進みチケットを買うときに比べてすぐ祐樹達の番が来た。
カウンターに貼ってあるメニューを見ると、ポップコーンの他にホットドッグなど様々なジャンクフードが載っていた。
「どうします?」
「ウチはポップコーンの一番でっかいのと、コーラの一番でっかいやつ!」
『でっかい』は細かいこと無しのストレートで一番解りやすい表現だった。ポップコーンは自分も食べるとしてコーラは飲みきれるのだろうか。李奈の小さい身体の中の更に小さい胃袋に収まるようには思えなかった
「大丈夫ですか......? 多いと思うけど」
「ウチ、こう見えても大食いだから! コーラも一番好きな飲みもんだし」
「はぁ。なら良いですけど。ポップコーンのビッグサイズとコーラのMとLLください」
店員が満面の営業スマイル。そしてゆっくり頭を下げた。