07
電車に乗り隣町まで行くとそこからはスマホの地図で確認しながら目的地まで歩いた。今年の春にオープンしたという映画館。駐車場にたどり着くと外観がはっきりと確認できた。相変わらずくっついて歩いていた李奈が祐樹から離れ走り出す。その姿はまるで夏休みの子供だった
だが佇まいを見ただけで胸が踊るのは祐樹も子供の頃から変わらなかった。最近は朱里の付き添いで月一くらいで別の映画館に来ている。朱里は映画鑑賞も趣味だった。
「映画館!」
「李奈さん、迷子になりますよ」
万歳するように両手を挙げた李奈はハッとし再び祐樹の腕に収まった。実際、目の前に映画館があるのだから迷子には絶対ならないだろう。
「斉藤、早くいこっ!」
自然と歩くスピードが速くなる李奈に合わせ、祐樹もはやる気持ちを抑えながら映画館へと入っていった。
館内は独特の薄暗さで、別世界に来たようだった。だが親子連れやカップルで賑やかだ。走り回る子供達、この子らも自分達と同じを映画を見るのだろうか?
「あ! ねー斉藤写真撮って!」
李奈に腕を引っ張られた先に有ったのは、今回観る映画のアニメキャラクターを形どったパネルだった。李奈は祐樹に自分のスマホを渡し、そのパネルに並んだ。身長より大きめのパネルの前で大きくピースする。カメラのボタンを押すと李奈の姿が収まった。
「撮れた?!」
「撮れましたよ。ほら」
タタタッと駆け寄る李奈にスマホを返す。画面を確認するとジャンプして喜びを表現していた。
他にも色んなパネルの前で写真を撮る。李奈は19歳らしいが本当にそうなのだろうか。でもそんな無邪気さに祐樹は惹かれていた。
開演までは一時間程有った。チケットが取れるか心配だったがチケットセンターの画面を見ると空席は充分に有るようだ。
「1人1800円だから。合わせて3600円ね」
「斉藤お金払ってくれるの?」
「はい。僕が出しますよ」
「待って。自分の分は自分で払うよ」
「遠慮しなくていいですって。大したことないですし」
すると李奈は首を横に振った。
「働いたお金、使いたいんだ。だから払わせてほしい」
カバンから取り出した財布をギュッと握りしめた。
「......そっか。李奈さん立派な社会人だもんね」
李奈は子供じゃなく立派に働いてる大人だった。そのお金を使いたいという気持ちは祐樹も理解出来る。何でも世話するのは無粋だということにも気付いた。