02
陽世の長い髪に指を絡ませ、髪の毛1本1本を堪能する様にかき分けた。偶にふわっとシャンプーの香りがする。大人の匂いと言うよりはごく一般的なシャンプーの香りでそれが陽世の子供っぽさを強調させた。陽世はこちらを気にせず問題用紙に取り組んでいるが、シャープペンがくるくると書いてるフリをしているだけだった。
頭を撫でても特に反応は無いが表情を見る限り照れているの隠しているようだ。
「本当に綺麗な髪だね。触ってて気持ちいいよ」
「......気持ちいいの? 何それ」
ちょっとずつ陽世の心の壁を解いていく。後頭部から髪をかき上げる様に指を動かし直接頭皮に触れた。そして優しく撫でるようにさわさわと動かす。頭皮は少しだけ湿っていた。
「んっ」
聞こえるか聞こえないか声だったが陽世から声が漏れたのを聞き逃さなかった。同時に身体がピクンと小さく跳ねた。指先に心音が伝わってくる。陽世は心臓が高鳴っているのを隠している様だがバレバレだ。
「......ちょっと触りすぎだよ」
与えられる刺激に耐えられなくなったのか陽世が手で制してきた。
「感じちゃったんでしょ?」
「はぁ?! 違うし......くすぐったいからだもん」
強く言い返されたが、陽世は一瞬目を合わせた後俯いて毛先をいじりこちらを見ようとしなかった。
「ねぇもうちょっとだけ触らせて?」
両手を合わせ陽世に向かってお願いをした。そんな変態的なお願いをされたことがないのか陽世は戸惑った様子を見せる。
「え〜......じゃあさ......」
「何?」
陽世は何かを口籠った。きっと何かと引き換えなのだろう。だがその引き換えの相手は容易に想像できる気がした。
「ん〜......宿題無しにしてくれたら......ハルに......何でもしていいよ」
恥ずかしさで声がボソボソになっていたが肝心な部分はしっかりと聞き取った。やはり引き合いに出したのは宿題のこと。それに「髪を撫でる」だけのはずが「何でもしていい」に飛躍していた。
「何でもしていいの?」
「......うん......エッチとか」
『エッチとか』の部分は本当に消え入る様な小さな声だった。一番伝えたい部分だが出来る事なら聞き逃してほしい、そう言う意図が伝わってきた。