08
自分より強い人間が居たなんて。負けた悔しさより衝撃の方が何倍も勝った。彼女は異次元だ。目の前に掲げられた長いスカートに隠れていた足は自分の顔の前で止まっていた。
『強いんやな』
『お前もな』
女はゆっくりと足を下ろした。いつの間にか女の顔は笑っていた。
『あんた名前は何て言うんや』
『私は島崎遥香。ソルトと呼ばれているよ』
『......うちは横山由依や』
『久々にタイマンして楽しいと感じたよ。私と互角に戦うとは中々だ』
島崎遥香の言葉にムッとした。自分は圧倒的な強さに負けたのだ。決して互角では無かった。
『そんなに見下されるのは好きやない。あんたの方が何倍も強かった。負け犬はごめんや』
『ふふっ、お前が強いから私も強くなれた。決して見下してなんかいないよ』
役者が一枚上、島崎遥香には常に余裕が感じられた。取り乱しているのは自分だけだった。じっと見つめられているその目からは嘘は感じられない。
『横山由依......と言ったか、私はお前とまた会うことを望む。マジ女で待っているぞ」
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「島崎さんに惚れてたんですね」
「まぁそんなとこやろ。ソルトは強いだけやないからな」
人恋しくなったのか祐樹が強く抱きしめてきた。この男は本当にずるい。愛するべき彼女がいると言うことは自分は本命ではない。それなのに祐樹の抱擁はとても心地よかった。外の雨の音をじっと聞く。それ以外は何も聞こえない気がした