07
「暖かいわぁ」
子供の頃に母親におぶってもらった時の感触が蘇る。初めての異性の背中はとても安心感があった。
「横山さん? どうしたんですか?」
祐樹に慌てる様子は無かった。それに少しイラっとした。女性が好意を見せたのに平然とした態度をとったからだ。
「なんやその反応。女慣れし過ぎやろ」
「ああすいません。じゃあ正面でハグしましょ」
「うん」
由依は力を緩めると祐樹はくるっと由依の方を向き包み込むように抱きしめた。由依も身体を預けるようにしがみつく。
「横山さんって大人っぽいなって思ってたけど、まだまだ少女って感じ」
「......大人っぽいってうちは大人やで。あんたとそない変わらへんやろ」
「確かにそうだけど、こうやって抱きしめるとあの子達と同じで小柄なんだなぁって」
優しく抱きしめられると身体に溜まっていたストレスが抜けていくような気がする。とてつもない安心感が由依の凝り固まった毒気を溶かしていく。祐樹に関わった生徒達が次々とヤンキーを辞めていくのはこう言うわけか。由依は納得した。
「横山さんはこれからどうするんです? やっぱり家を継ぐんですか」
「まぁ最終的にはそうなるんやない? うちもそれでええって思ってるし」
「マジ女に入学することは反対されなかったの? 横山さんなら進学校にも充分行けたでしょうに......」
顔を埋め、猫のように甘える。すると祐樹が『杏奈みたい』と小声で呟いた。
「うちの親はそう言うとこは寛容なんや。自由にさせてくれた」
子供の頃から親の言いつけで幾つもの習い事をさせられた。決して押し付けだとしても嫌な思いはしなかったが退屈だった。そんな中で身体を動かすもの特に武術に魅せられた。強くなれば自分自身、そして仲間を護れる。
「でもなんでわざわざマジ女に?」
「ソルトの影響や」
中学時代は来る日来る日も武術道場で修行を積んでいた。心技体を鍛えるのは芸術にも通ずるとし、両親も勧めてくれていた。そんなとき、道場の門を叩いた女が居た。雪のように肌が白く顔からは生気が感じられなかった。それでも自分の目の前に立つと背丈は変わらないはずなのに相手の方が大きく感じられる程圧倒的なオーラだった。
その女は自分を見つけるや否やこう言った。
『私の側近にならないか?』