06
湿気により蒸し蒸しとした空気に耐えられず、由依は図書室の窓を開いた。外からは冷えた空気が入ってきたが幾分かマシだった。自在ほうきを持ち直すと隅に溜まっている埃を取り除く。開かずの間となっていた図書室は祐樹によって開かれ、使われるようになった。利用しているのは岡田奈々だけのようだが前に比べると部屋がほったらかしということは無くなっていた。
「これ全部奈々が読んだんか?」
「そうです。奈々さん、卒業するまでに図書室にある本を全部読みたいんですって」
由依は腕を組み積み上げられていた本を見て感心をした。奈々は自分の代わりに図書室の司書も請け負っているが、その間もずっと本を読んでいる。
「奈々みたいなのが本の虫って言うんやろな」
人を虫に例えるのは如何なものかと思ったが他に言葉が思いつかなった。再びほうきで掃き始める。祐樹は奈々が借りていた本をチェックすると共に新しく入った本の検品をしていた。
恋愛感情、さっきからそういったものが湧いている。作業をしている祐樹をじっと見ていたいと思った。
子供の頃から高飛車だった自分に近づく異性など居なかった。祐樹は、厳しい教育でお堅く育った自分を解してくれる存在。もう成人を迎えた自分に初めての思春期が訪れたようだ。
由依は開いている窓から外を眺める。雨の降りかたはマジ女に着いた時とまるで変わっていなかった。雨の壁、そう言う表現が合っている。まるで2人を校舎から出さないかのように。
「......なんや、今が人生最大のチャンスとでも言いたいんか」
雨に向かって由依は語りかけた。雨は何も喋らない。いや、この雨の勢いこそが返答なのかもしれない。
「うちが正直にならへんとやんでくれへんのね......ホントけったいやわ」
はぁと溜息をつき、雨空を睨みつける。そして祐樹の方を向いた。いつの間にか祐樹は立ち上がり背をこちらに向けていた。ほうきを立てかけると由依はゆっくり大きな背中に近付く。
心臓が高鳴る。この心音で祐樹に気づかれてしまいそうだ。
「ちょっとすまんな」
ボソッと呟いた声に気づき祐樹は振り向こうとする。それを制すように由依は腕を回し大きな背中を抱きしめた