05
職員室に居た祐樹は自分の机を整理しているようだった。ぎっしり物が並べられていてまるで物置のような部屋。乱雑に置かれた図書にぶつからないように由依はそっと祐樹に近付いた。
「相変わらず職員室って汚いわ。生徒に自分の周り整理整頓しろとか言えへんやん」
「あはは。確かに。まぁ僕は言わないですけど」
祐樹は積み重ねられた書類を1段目の引き出しへとしまった。祐樹の机も作業をするスペースは存在しているが周りは物で溢れていた。他の教師の机も同じようなもの。唯一綺麗なのは祐樹の隣の机だけだった。
「さすが柏木先生は綺麗やわ。先生も見習った方がええで」
「柏木先生は女性ですからね。僕とは違いますよ」
「性別は関係あらへんよ。男はそうやって性別を言い訳にするんや」
由依は腕を組み、祐樹をグッと睨んだ。テレビで聞くようなありふれた言い訳を聞くと怒りが込み上げてくるのだ。
「それ柏木先生にも言われましたよ。それに僕の居ない間に机を片付けたりしてくれるからつい甘えちゃって」
とことんダメ人間だなと由依は思った。しかしこのひ弱加減が色々な女を虜にさせているのかもしれない。
「全くブラックさんも優しすぎる。それがブラックさんの良いとこでもあるんやけど」
「でも柏木先生ってめちゃくちゃ強かったんでしょ?」
「そうや。今の若い子は知らんやろうけど、ラッパッパのブラックさんって言ったら素早い動きで何人もの相手をなぎ倒す。お淑やかな見た目からは想像出来ひんくらい強かったんやで」
今の見た目からしても黒いものを身に付けヤンキーをやっていた頃は想像出来ない。ブラックこと柏木由紀は今年マジ女に赴任し、祐樹と同様優しく生徒に寄り添ってくれる教師として生徒からの人気が有った。とても美人でスタイルが良いが鈍臭くて引っ込み思案というのが下級生の間で話題になっているが、由依やチーム火鍋からすると偉大な先輩だった。
「先生はブラックさんと関係は無いんか? ブラックさん、先生と一緒にいつも居るやん」
「関係って......まぁ柏木先生は新任で机も隣だから色々教えてたりはしてたけど。人見知りだからなぁ」
「人見知りだからやん。どーせ言いくるめて抱いてんとちゃうの?」
由依がカマをかけるように祐樹を見ると祐樹は顔を逸らした。
「抱いてはないかな......抱いては、ね」
「そう、お盛んなことやわ。ところで先生はマジ女に用でも有ったん?」
今日は休日だった。それなのに鍵を持参していたということは何か学校で作業を行う予定だったのではないか。そのおかげで自分は雨宿りが出来た。
「ああ図書室に新しく来た本を検品しないといけないんですよ。昨日の内にやっときたかったんだけど忙しくて」
「そうなん。だったらついでやし、うちも手伝うわ」
「大丈夫ですよ。僕の仕事だし」
祐樹は手を振り遠慮した。
「遠慮せんでええよ。うちは図書委員長なんやし。大体雨がやまへんと帰れん」
空を見ても由依を家に返す気はさらさらないという雰囲気だった。誰も居ないマジ女で何もせず雨を止むのを待つよりは何か行動をしていた方がいい。それに自分は図書委員長という肩書きがある。ただ委員長らしい活動は何もしていない。同じく図書委員である岡田奈々の方が精力的に活動している。
「そうですか。ならお願いしようかな」
祐樹がニッと笑うと由依も自然と笑みが溢れた。なぜかこの閉鎖された空間に2人だけで居たいとそう思う自分が存在していた。